今また、空前の「田舎暮らしブーム」らしい。
団塊の世代を中心に、1980年ごろから何度も起こっている現象なのだが、国を挙げての大きなビジョンになっていることが今回の大きな特徴と言える。
そのキーワードの一つが「日本版CCRC構想」。CCRCとはContinuing Care Retirement Communityの頭文字をとったもので、和訳すれば「シニアが継続的なケアや生活支援を受けながら、生涯学習や社会活動に参加できる共同体」という意味になる。発祥の米国では、このようなコミュニティが2,000カ所ほど存在し、約75万人が居住していると言われている。
この日本版が内閣官房が主導する「生涯活躍のまち」構想である。
東京圏への人口の極度の集中を抑え、地方創生につながるものと期待されているが、本稿では、その最も大きなよりどころになっている「地方移住は高齢者の望み」というデータ結果をご案内することにしたい。
図1.は東京在住の50、60代の男女別に移住する予定があるか、検討を考えているかを聞いたもの。
50代男性の「移住願望」が最も高く、50.8%と過半数を占めている。この数字は、各年代男女の10のグループの中で最も高い。60代(同じく男性)になればガクンと数字は減るが、それでも、36.7%と3人に1人は移住願望を抱いている。
男女別にみれば概して女性の方が移住願望は小さい。年代別にみても、女性の場合10・20代の移住願望が最も大きく、年代が上るほど、小さくなってくる。30代で一旦落ち込み、40代で盛り返し、50代でピークを迎える男性とは大きく異なる傾向を示している。
図2.は「2地域居住」の意向を尋ねた結果。
完全な移住とは異なり、性差、年齢差により大きな差が見られない。完全移住よりリスクが低いと思われるのか、女性の意向も男性とほぼ同様になっている。
こういった移住願望を時系列的に見れば、どうなるのだろう?
図3.は別の調査で「都市住民の農山漁村への定住願望」を2005年と2014年で比較したもの。50代・60代・70歳以上それぞれの年代で「定住願望あり」と答えた人の比率が増えている。とくに60代の増加傾向が顕著だ。
「移住願望」を持つ人が移住先でどのように過ごしたかを問うたのが図4.のグラフ。
農⼭漁村(地⽅)への定住を希望する都市在住の60代、70代以上の中では、移住後に、地域交流や地域貢献活動、農作業等に携わりたいという者が多く、地⽅へ移住して、活動的(アクティブ)に⾼齢期を過ごしたいと希望している者が多いと考えられる。
60代と70代の差を細かく見ると、60代では自然観察や趣味としての農業に人気が高い。一方70代以上では、地域の人との交流や地域貢献など人への興味が増えてくるなど、傾向が異なってくるのも興味深い。
「意向」と「実行」の間には大きなキャズムが横たわっているのが普通だが、「東京圏→地方」への人の流れができつつあることを示しているデータもある。図5.は5歳刻みの年齢層別に、転入超過か転出超過かをみたものだが、若年層では圧倒的に東京圏への流入が多いのに対して、50~60代では、数としては少ないが転出超過になっている。
東京圏から地方を目指す、シニア世代の民族移動が始まりつつあるのかもしれない。(以降、下に続く)
日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男
2024年9月13日
2023年9月7日
2023年3月20日