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多様化するシニア向け食品・食事提供サービス(下)

次に「食材宅配サービス」の利用理由を見て行こう。(図5.)

このサービスは高齢者だけでなく、単身者・子育て世帯・共働き家庭とさまざまなライフステージで幅広い支持を集めている。
惣菜を含めた食材宅配サービスは食品宅配サービス市場の15%(2014年:矢野経済研究所推計)を占める大きな市場である。

図5

料理を宅配する配食サービスと異なり、栄養バランスを求める声は聞かれない。上位を占める利用理由は「買い物の手間が省けるから」「買い物が身体的に困難だから」と言った、「手間の軽減・省力化」ニーズによって占められている。

今一つ特徴的なのは、「安全性の高い食材を購入できるから」「地場産の食材を購入できるから」のスコアが高いこと。配食サービスに比べ概ねダブルスコアをマークしている。

「シニア女性は、食に旬・安全性・鮮度を求めているという記事を以前紹介したが、食材宅配サービスの利用においても、その傾向が反映されているのだろう。

参考:「シニア女性の食品選びは、鮮度と安全性を重視。」https://www.nspc.jp/senior/archives/2058/

図6

会食サービスは、高齢者の孤立によるうつの抑止をねらいの一つにしたものだが、利用理由にもその目論見の正しさが反映されている。(図6.)

利用理由のトップは「同世代との交流が楽しめるから」で、続いて「栄養のバランスのとれた食事がとれるから」。それぞれ、40.0%、33.3%と他の項目を大きく引き離している。
一方で利用者からも、「もっと提供頻度を多く!」、「交流のあり方について」、「参加者の検討」といった課題が寄せられており、ニーズと運営の間のギャップもうかがえる。

会食サービスは行政・社協・NPO法人といった組織が中心に引っ張っているのが現状だが、民間のノウハウを注入する余地も大きく残されていると思う。

図7

最後に介護食品について触れてみよう。

農林水産省の試算によれば、現在の市場規模は1,100億円程度だが、潜在的には3兆円まで伸びるとも同省では試算している。

しかしながらその利用状況は、前回のコラムでご紹介したように、利用している人が9%。利用を検討している人を合算しても19%と2割に満たない。その利用理由も「咀嚼や嚥下に困難を感じるから」という切実な問題が50%とダントツの1位を占めている。(図7.)

図8

図9

介護食品に対する要望を聞いた結果が上図。図8.は元気高齢者に聞いた結果。図9.は介護・介助者に聞いた結果である。

当然と言えば当然だが、元気高齢者はほとんど関心を寄せていない。「要望は特にない」というのがその現れでもある。
「介護食品について知らないため、わからない」という人も3人に1人に上り、関心の低さをうかがわせる。
疾病についての予防意識は高くても、介護への予備知識は意外に低いのだ。

今は元気高齢者でも、いつ何時介護を必要とする側に回るかもしれないのだから、予備知識くらいはもっと頭に入れてよいと思う。

一方の介護・介助者に聞いた結果からは、切実な要望が上がってきている。「安い値段で、豊富なメニューが、苦労しなくても手に入る」。一括りにすればこのようになる。

重要なのは、この要望が図らずも、マーケティングの4Pのうち、プロモーションを除く3つのpの不備を示唆していることだ。即ち、プロダクト・プライス・プレイスについての企業努力を促しているのだ。

急成長が今後も続く分野。重点商材に準ずるほどの消費者目線に立ったマーケティング投資が必要だろう。

日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男