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73歳の私が見た「敬老の日キャンペーン」――これは嬉しい、これはちょっとズレている

 
 先日、私は73歳になった。「もう73歳か」と思う一方で、自分自身を「高齢者」と強く意識しているかというと、そうでもない。もちろん体力の衰えは感じるし、若い頃とは違う身体の使い方も考えるようになった。それでも、「高齢者だから特別に扱ってほしい」と思っているわけではない。そんな私が、今年の敬老の日を前に、ふと思った。

 企業や自治体が「高齢者に喜ばれるだろう」と考えている「敬老の日」企画と、73歳の私が本当に嬉しいと思う企画は、果たして同じなのだろうか。そこで、2026年の敬老の日を対象とした全国で行われるキャンペーンやサービスを調べてみた。以下はその一部である。自治体の施設優待は通年で行われているものも多い。

※表はクリックで拡大できます

 もちろん、無料になったり、割引になったりすれば嬉しい。しかし、それだけではない。「これはわざわざ行ってみたいか」「妻や友人を誘いたくなるか」「子どもや孫と一緒に楽しめるか」「高齢者扱いされていると感じないか」「来年もやってほしいと思うか」…そして何より、「73歳になったことを、ちょっと得した、ちょっと嬉しいと思せてくれるか」という視点で見てみることにした。評価は、あえて単純にした。

 ◎ ぜひ利用したい
 ○ 機会があれば利用したい
 △ 企画意図は分かるが、自分にはあまり響かない

 これは73歳の生活者としての評価である。ただ、マーケティングの専門家としての気づきも記した。

1)澄江 知多(旅館)「年齢=割引率」――これは、かなり面白い
 今回調べた中で、私が最初に「これは面白い」と思ったのが、南知多内海温泉「澄江 知多」の敬老の日限定プランだ。9月21日限定で、65歳以上を含むグループを対象に、グループ内の最年長者の年齢が、その人の宿泊代の割引率になる。80歳なら80%OFF。100歳なら、なんと無料である。

 この企画の何がいいのだろう。もちろん、大幅な割引だから嬉しい。しかし、それだけではない。私が面白いと思ったのは、「年齢を重ねたことそのものを価値に変えている」ことだ。「65歳以上だから高齢者割引」という一般的な発想ではない。80歳なら80歳であることが、80%という数字になる。つまり、年を取ったことで得になる。この発想がいい。

 私は73歳になった。正直に言えば、「73歳になりました」と胸を張って言いたいわけではない。できれば、「高齢者だから」と特別扱いもされたくない。ところが、この企画なら話が違う。「73歳だから73%OFFですよ」と言われたら、「73歳も悪くないな」と思ってしまうかもしれない。

 ここには“敬老する側/してもらう側”という関係が発生していない。年齢を重ねた本人にも、そして一緒に旅行する家族にもメリットがある。しかも、グループの最年長者が基準になるため、親子や家族で利用する動機にもなる。これは、シニアを「値引き対象」として見るのではなく、シニアの存在そのものを、家族旅行の価値に変えている。私はここを高く評価したい。

私の評価:◎

2)大阪水上バス――「歩かなくていい」は魅力。でも、それだけではない
 大阪水上バスの「アクアライナー敬老感謝特別クルーズ」は、9月1日から30日まで、通常2,000円の大人料金が10%引きの1,800円になる企画だ。大阪城や大阪市中央公会堂などを約55分かけて水上から巡る。屋根付き・空調完備で、トイレもある。

 ここで面白いのが、「歩かずに大阪の名所を巡れる[栄若7.1][直村7.2]巡ることができる」という発想だ。高齢になると、長時間歩くことは確かに負担になる。これはありがたい。ただし、ここには一つ注意点がある。高齢者は、歩きたくない人ばかりではない。むしろ健康のために毎日歩いている人も多い。

 だから「高齢者だから歩かなくていいですよ」と言われたら、少し違和感がある。「歩かなくていい」を前面に出すより、歩くのもいい。でも、今日は水上からゆっくり大阪を眺めてみませんか、くらいの訴求のほうが、シニアには響くのではないだろうか。

 「身体の負担を減らしてくれる」という機能的なメリットと、「いつもと違う景色を楽しめる」という楽しさを組み合わせる。そこに、この企画の可能性がある。

私の評価:○

3)東京都の老人週間無料公開――「本人+もう一人」を無料にする発想
 東京都では9月15日から21日の老人週間に、上野動物園や多摩動物公園、葛西臨海水族園、都立9庭園などを60歳以上無料とし、さらに付き添い一人も無料としている。美術館などでは65歳以上本人が無料になる施設もある。私は、この一人無料」に注目した。

 なぜなら、シニアを起点に、もう一人の消費を生み出すというマーケティング的な意味があるからだ。高齢者本人だけを無料にするのではない。妻、友人、子ども、場合によっては孫。「おじいちゃん、おばあちゃんが無料だから、一緒に行こうか」というきっかけになる。

 これは、単なるシニア割ではない。シニアを「消費される側」ではなく、「人を連れてくる側」にしている。シニアマーケティングでは、本人の財布だけを見るのではなく、シニアを中心に誰と行動するのかまで考えたほうがいい。

 一つ気になるのは「老人」ということば。高齢者としてあまり使ってほしくない、と思うのは私だけではあるまい。

私の評価:◎

4)いばらきフラワーパーク――「敬老の日」を「三世代の日」に変える
 いばらきフラワーパークでは、9月19日から23日に「フラワーオータムフェス2026」を開催。「三世代で楽しむ7日間」をテーマに、9月21日の敬老の日には65歳以上が無料になるほか、園内のレストラン、花、カフェ、アクティビティなどの割引特典も用意される。

 ここで私が面白いと思ったのは、敬老の日を単なる「高齢者サービスの日」にしていないことだ。三世代で楽しむ日にしている。「敬老の日だから、おじいちゃんを大切にしましょう」と言われると、少し構えてしまう。

 でも、「敬老の日だから、じいじとばあばも一緒に行こう」なら話は違う。そして、孫のかわいさは別問題だ。「敬老されるのはちょっと……」と思っている私でも、孫と一緒に出かけられるなら、それは嬉しい。ここでは、敬老の日という制度的な意味を、世代間交流の日へと変換している。マーケティングとしても上手いと思う。

私の評価:◎


5)神戸ポートピアホテル「シニアスイート」――これは、ちょっと違う?
 一方で、私が首をかしげた企画もある。神戸ポートピアホテルの「シニアスイート」。100㎡を超えるシニアスイートに朝食付きで、ペア宿泊券が45,000円。敬老の日のギフト宿泊券として販売されている。

 もちろん、ホテルのスイートルームに泊まること自体は素晴らしい。しかし、73歳の私としては、「この部屋に45,000円払って泊まりたいだろうか?」と考えてしまう。子どもたりからのギフトにしても、私は「シニアスイート」という名前だけでは心が動かない。

 むしろ、「シニア」という言葉を商品名に付ければ敬老の日らしくなる、と考えていないだろうか。そんな印象を持った。企業にとっては話題性のある企画なのかもしれない。しかし、パブリシティを獲得することと、シニア本人が「これは欲しい」と思うことは同じではない。シニア向け商品を作るときに陥りやすい落とし穴ではないだろうか。

私の評価:△

6)ゆず庵(食事処)――「ポイント2倍」は正統派だが、わざわざ行く理由になるか
 「寿司・しゃぶしゃぶ ゆず庵」では、9月19日から23日まで、「お祝いコース」を注文すると、通常1個のアプリ来店スタンプが2個もらえる。スタンプを貯めると最大5,000円引きのアプリクーポンがもらえる。

 これは販促として正統派だ。しかし、私にはインパクトが弱い。ポイント2倍は、今やさまざまな店で行われている。「敬老の日だから、ゆず庵に行こう」というほどの動機にはなりにくい。

 もう一つ気になったのが「お祝いコース」という言葉だ。私は高齢者になったからといって、店に「今日はこのコースを食べてお祝いしましょう」と決めてもらいたいわけではない。食べたいものは、自分で選びたい。家族が「敬老の日だから」と食事会を企画してくれるのは嬉しい。だが、それと「高齢者だから、お祝いコース」という発想は別だと思う。

私の評価:△

7)シニア割――新規集客より「カスタマーボンディング」に向いている?
 今回調べていて、ホテルや飲食店などのシニア割をいくつも見つけた。例えば沖縄でも、9月21日を中心に65歳以上の割引や、家族で利用できる敬老の日限定ブッフェなどが展開されている。こうした企画について、私は「新規のお客さんを呼ぶ施策」として見ると、少し弱いと思う。数百円、あるいは数%安くなったからといって、その店を知らなかった人がわざわざ訪れるとは限らない。

 むしろ、すでに利用しているお客さんに「今回はちょっと得したな」と感じてもらう。そういう「カスタマーボンディング」の施策として考えると、意味が出てくる。新規顧客を獲得したいなら、単に値段を下げるのではなく、
 • 敬老の日限定の特別メニュー
 • 普段は提供していない一品
 • シニアが知らない新しい食材
 • 食後の小さな体験
 • 店からのちょっとしたプレゼント
など、「ここに来たからこそ得られた」という特別感を作ったほうがいい。割引率を競うより、こちらのほうが長期的な顧客づくりにつながるのではないか。

私の評価:△

8)東京都施設――「利用無料」にするだけではなく、「普段できないこと」を
 東京都では、老人週間に動物園や庭園、美術館などを無料公開している。これはシンプルに嬉しい。ただ、私が住んでいる京都では、国立博物館、二条城、無鄰菴、動物園など、日常的に無料で利用できる身近な施設がある。

 そう考えると、「無料です」だけでは、必ずしも特別な体験にはならない。ならば、敬老の日だけ、
 • 普段は入れない場所に入れる
 • 学芸員の解説を聞ける
 • 開館前に特別見学できる
 • バックヤードを見られる
 •普段は見られない資料を見られる
といった「特別感」を加えたらどうだろう。高齢者になって、むしろ文化や歴史を面白いと思うようになった人は多い。「無料だから来てください」ではなく、73歳になったから、こんなものを見せてもらえた。そんな企画に私は惹かれる。

私の評価:○

9) 澄江 知多(旅館)「量より質」――シニアの価値観を理解している
 ここで、今回あえてもう一度登場してもらいたいのが、同じ「澄江 知多」の別の企画だ。9月限定の「美食少量シニア旅」は、ブランド牛「知多牛」や伊勢湾の海の幸などを使い、「量より質」を重視した特別会席を用意している。しかも、シニア限定ではなく誰でも予約できる。私は、この考え方はこれからのシニアマーケティングで重要になると思う。

 若い頃なら、「せっかく旅行に来たのだから、たくさん食べたい」だったかもしれない。でも、年齢を重ねると、たくさんはいらない。いいものを少し食べたい、という思いが強くなる。

 これは食事だけではない。服も、家電も、旅行も、サービスも、「量より質」という価値観は、シニア消費を考える上で大きなヒントになる。そしてもう一ついいと思ったのが、シニア限定にしていないことだ。

 「高齢者だから少量でいいでしょう」ではない。「量より質を好む人のためのプラン」
として成立している。これは、シニアを特別扱いしながら囲い込むのではなく、年齢を重ねることで生まれた価値観に寄り添うマーケティングだと思う。

私の評価:○

10)敬老の日企画の新しい視点を――「敬老の日を知らなかったものを発見する日」に
 今回取り上げたのもだけではなく、多くの「敬老の日」企画を調べながら、最後に私が強く感じたのがこれだ。敬老の日だからといって、「高齢者向けの商品を安くします」だけでなく、「高齢者がまだ知らない、でも知ったら嬉しいものを教えます」という企画があってもいいのではないか。

 例えば、
• リカバリーウェア
• 完全メシ
• 大人の粉ミルク
• スマホ補聴器
など。

 もちろん、これらがすべての高齢者に必要だと言っているわけではない。大切なのは、「高齢者だから買うもの」ではなく、「73歳の私がまだ知らないけれど、知れば生活がちょっと便利、ちょっと楽しくなるもの」を発見できることだ。

 敬老の日を「シニア向けセール」にしてしまうのではなく、これからの人生をちょっと豊かにする新商品との出会いの日にする。これは、企業にとっても新規顧客との接点をつくるチャンスになる。そしてシニア本人にとっても、「まだ知らないものがある」というワクワク感がある。私はこういう「敬老の日」企画なら面白いと思う。

私の評価:◎


73歳の私は何に「◎」を付けたのか
 今回の10企画を振り返ってみると、私が高く評価したものには、いくつか共通点があった。

◆「敬老される側」にしない
 「高齢者だから、これをどうぞ」ではなく、「年齢を重ねたあなたにも、こんな楽しみがあります」という企画。澄江 知多の「年齢=割引率」は、その象徴だと思う。年齢を重ねることを、弱点ではなくメリットに変えている。

◆シニア本人だけを見ない
 本人だけを無料にするのではなく、妻、友人、子ども、孫まで含めて考える。東京都の「付き添い1人無料」や、三世代で楽しめる企画には、この発想がある。これは企業側から見ると、「シニア1人の集客」ではなく「シニアを起点に複数人の消費を生み出す」
ということでもある。

◆値引きより「理由」をつくる
 「10%OFFだから来てください」では弱い。「普段は入れない場所に入れる」「水上から大阪を眺められる」「孫と一緒に楽しめる」「知らなかった商品を発見できる」―そんな「行く理由」が必要だ。

◆「高齢者だから」という固定観念を捨てる
 これはかなり重要だ。
 ・高齢者だから歩かない
 ・高齢者だから少食
 ・だから健康商品
 ・高齢者だから旅行は近場
 ・高齢者だから「お祝いコース」

 本当にそうだろうか。73歳の私から見ると、高齢者という一つの属性だけで消費者を説明するのは無理がある。同じ73歳でも、価値観も体力も財布の使い方もまったく違う。だから、「シニア向け商品」を作るより、年齢を重ねた人の中に生まれてきた新しい価値観を見つけることのほうが重要なのではないかと思う。

敬老の日は、「高齢者に何かをしてあげる日」なのか
 今回、2026年の敬老の日キャンペーンをいろいろ調べてみて、私は一つの疑問を持った。企業も自治体も、決して悪気があって「高齢者向け企画」を作っているわけではない。むしろ、「喜んでもらいたい」「楽しんでもらいたい」「長年の感謝を伝えたい」という気持ちから企画している。しかし、その気持ちが強すぎると、ときどき企画が「お仕着せ」になってしまう。

 「高齢者はこういうものが嬉しいはず」と決めてしまうからだ。73歳になった私は、まだまだ自分で選びたい。自分で食べたいものを決めたいし、行きたいところへ行きたい。新しいものを知りたい。孫と遊びたい。妻と出かけたい。友人と話したい。そして、時には一人で静かに過ごしたい。人によってはその逆もありうる。

 だから、私が思う「いい敬老の日キャンペーン」は、「高齢者を喜ばせる企画」ではない。「高齢者本人が、自分から参加したくなる企画」なのだと思う。

73歳になった私から、「敬老の日」企画への注文は…
 最後に、73歳になったばかりの私から、企業や自治体に一つだけ注文をする注文をつけるとしたら、「敬老の日だから高齢者に何をしてあげるか」ではなく、「自分が73歳なら73歳の私なら、何をされたら自ら動きたくなるか」を考えてほしい、ということになる。

 無料にする、安くする、プレゼントする。それも嬉しい。でも、それだけではない。
「あなたの年齢だからこそ、こんな楽しみ方があります」
「今まで知らなかった、こんなものがあります」
「妻や友人、孫と一緒にこんな時間を過ごしませんか」
 そんな提案なら、私はきっと耳を傾ける。9月5日に73歳になったばかりの私は、まだ「敬老される側」になったつもりはない。でも、73歳になったからこそ、見えてきたものもある。

 今回の「敬老の日キャンペーン」探しは、そのことをあらためて考える機会になった。そして来年は、「今年より、ちょっといい敬老の日になっていますように」と期待している。

   日本SPセンターシニアマーケティング研究室 特別顧問 村井直也(73歳)

※本記事は、編集部が確認した範囲での感想です。利用のしかたや個人の状態によって感じ方は異なります。掲載内容は、特定の施設やサービスの公式見解ではありません。