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よりよく歳をとる。長生きをリスクにしない 
加齢を「知って感じる、考える、行動する」

 シニア期を迎えることを考えたり、そのために行動したりするのには、どうも男女差があるらしい。
 その背景には、人生のセンパイから話を聞いているかいないかと関係があるかもしれない、というデータを以前の記事で紹介した。当室ではよりよい加齢に対して考え・行動するために、これらの傾向から推測される大切なことを以下の3点にまとめた。(よりよく歳をとる。長生きをリスクにしない 生き方を叶える環境とは?

 1.自分に起きたことだけでなく、他人の経験を共有する
 2.共有した他人の経験を自分ゴトとして消化する
 3.行動に移す 

 これらをtoCへの事業化と想定して、1人称のシンプルな動詞で捉えなおしてみた。

 加齢によって生じる経験を「知り、感じる」。そして「知って、感じた」ことをどう「考える」か。「考えた」ことから、どう「行動する」か。
 加齢による経験をまずは「知る、感じる」ために、どんな事業が考えられるだろう。

加齢によって生じる経験を
「知る、感じる」コンテンツとは?

 事業を考えるにあたって、まず必要なのは人生のセンパイたちの「経験」というコンテンツだ。そして「経験コンテンツ」をどう伝えて「知ってもらい、感じてもらう」か。

 ここでまず鍵になるコンテンツ、「経験」は、「事実」+「感情」と分解することもできる。誰かの身体と心を通して得られるのが経験コンテンツ。事業者やメーカー、研究者から紡ぎだされるわけではない。

 テーマを問わず振り返ってみれば、経験をコンテンツとして共有する場面はこれまでも存在している。

 たとえば広告・販売促進におけるユーザーズボイスは、手慣れた経験コンテンツだ。多くの事業者において、製品やサービスを利用してどうだったかどう思ったか。センパイユーザーの声が提供されている。高いニーズで求められ、センパイユーザーもよかったものは人に勧めたい、よくなかったものは避けてほしいと、発言している。
 もっと大きなテーマでいうと「戦争体験記」や「震災体験記」、「闘病記」も経験者が共有してくれるコンテンツ。経験したこと、感じたこと、発見したこと、そこで生まれた知恵なども提供されている。
 患者会であれば患者同士あるいは患者の家族や親しい人を含めて、情報を交換したり支えあったりする場。認知症の患者、その家族が集い情報交換できる場も全国に広がっている。
 情報交換や支えあいといえば、ママ友やパパ友も悩みと経験を共有しあう仲間であり、子育てにおいては親だけでなく近所に住む人生のセンパイ(大抵は “近所のオバチャン”と呼んでいる)に随分と助けられた、という話も聞く。

写真はイメージです。

 こう考えると、以下の傾向が見えてくる。

(1)テーマがはっきりしていると人は集まりやすく、悩みや経験が共有され、センパイの知恵・知識が活きる。ただし悩みが集まるだけでなく、センパイたちの経験も集めるには、困っている人(=ニーズがある人)が助かるだけでなく、経験者が語りたくなる場であることも必要だ。
(自主的に集まることができる人達もいるが、自治体や企業の旗振りがあって実現している場も多い)
(2)物理的な密接があると何かとセンパイの経験が共有される。(この場合、必ずしも先にコンテンツニーズがあるわけではない。地域や会社など他の目的のもと共同体が存在しており、既存のつながりに情報が乗せられる)

 これら二つの方向性で経験コンテンツを知る・感じる機会は存在していることが多い。

 ここで事業として人が集まる場を検討すると、「よりよく歳をとる。長生きをリスクにしない」というテーマはぼんやりしている。「確かにそうしたいね」とは思っても、「で、具体的には何?」という感じで具体性がなく、「人が集まりやすいテーマ」ではない。
 興味・喚起を起こす、「よりよく歳をとる。長生きをリスクにしない」経験の共有とはなんだろう?どういうコンテンツが人を惹きつけるのか。どうすれば経験を知り、感じてもらえるのだろうか?

事業化されている経験コンテンツ

 ここで先んじて提供されている、加齢に関する経験コンテンツの事業やサービスを見てみよう。

〇認知症を“体験”する「VR認知症」
 VRコンテンツによって、幻視や空間認識の変化などの認知症症状を体験できる。数年前から全国の自治体や企業内研修などで利用されている。

写真はイメージです。

 認知症患者の視点を体験することで、認知症患者とのコミュニケーションを見つめなおすことができるという。医療・介護事業者、家族介護者、行政機関だけでなく、教育機関や一般企業でも実施している。

〇注文をまちがえる料理店
 注文をとって配膳をするホールスタッフが全員「認知症」。認知症を発症しても社会と繋がる場で、お店を利用する側は注文と異なる品がでてきても、「まぁいいか」とか「あなたと私のお皿を取り換えましょうか」とか、笑って受け止めて食事をする。
 そういう場で過ごし認知症を発症しても社会と繋がっている事実を経験し、誰にとっても居心地のよい空間とは何か感じることができる。そのために自分が今できること、ものの見方にも気づくという。

写真はイメージです。

〇高齢者疑似体験教材
 加齢に伴い肉体的変化を体験する道具で、複数の企業から販売/レンタルされている。重い腕や足を動かしたり、見えるものが濁っていたりする高齢者の気持ちを実感できる。相手の気持ちを考えた介護方法や高齢者とのコミュニケーションの取り方を体験的に学ぶために、展開されている。

〇日本科学未来館「老いパーク」
 物理的な変化を知る・感じるだけに留まらず、「考える」機会まで提供している。
 展示では質問への回答を考えたりデータを確認したりすることで、自分や社会にある「老い」のイメージを見つめなおすことができる。さらに目、耳、運動器、脳に生じる老化(=体に起こる変化)を疑似体験でき、自分自身の老いを考えるパートで構成されている。
 自分の未来を考えると同時に、今、接するシニアを思う力も高まるのではないだろうか。

〇老いと演劇をテーマにした劇団「OiBokkeShi」
 俳優で介護福祉士の菅原直樹氏を中心に、岡山県に設立された劇団。
 演劇体験を通じて、認知症の人とのコミュニケーションを考えるワークショップを提供している。実際に身体を使って認知症を演じることで、ケアの気づきやヒントを講師と参加者の間で共有。介護される人、介護する人の気持ちを体感することができる。「時間に余裕がない中でもお年寄りの気持ちに寄り添えるようになれそう」「介護に戸惑っている家族に必要」など、体験型ならではの感想が寄せられている。

必要だけど行動できない「老い」への理解、ソナエ
「老い」体験のエンタメ化が、人を動かす

 先に示したような事業やサービスが登場している背景には、多くの人にとって高齢者の増加は社会課題だけでなく、自分が高齢期をどう生きるか。「自分の話」になってきているからではないだろうか?
 知りたいニーズはある。しかし少し、難しく、寂しく、不安になる、「老い」を知るために行動することは難しい。意識していれば、潜在ニーズがあれば、行動に結び付くわけではない。

 意識と行動の関係性でいうと、実は「食習慣改善に、関心はあっても改善するつもりはない」人は、24.8%。4人に一人が、意識していても行動する気がない。*1
 「食習慣の改善」と「よりよく歳をとること」を同列にはできないが、意識と行動はなかなか合致しないことのあらわれと言える。

 先行事例は楽しさや驚き、遊びの要素として「没入感」や「エンタテイメント性」を取り込んで提案。知りたい気持ちを後押ししてくれる。加えて多くの事例では考える時間や対話する時間を設けている。「知る、感じる」から「考える」機会まで提供していることが、行動変容に移る土台にもなりえる。

「加齢」を理解し考える機会の創出
その先に、行動に繋がる商材提案

 高齢期を意識しているプレシニア(45~59歳)は、8割。*2
 加齢に対しては健康づくりや美容、学びなど直接解決策に値する提案が行われてきた。しかし加齢に伴い具体的に何を経験しどう感じるのか、自分はどう考えるのか。検討する機会は少なかったのではないだろうか?

 今、徐々に経験共有の財・サービスが増えてきている現象は、加齢から生じることを具体的に知り、感じるニーズの表れだ。意識する人、きっかけを探している人は少なくない。

 自社ならどんな経験を集め、伝え、考える機会とソナエの案を提案できるのか。

 ダイレクトに解決策を提案するだけでなく、ユーザーが知り、感じ、考える提案からプランをたてることにも価値があるのではないだろうか。もちろん遊びの要素を付け加えつつ。

株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 石山温子

*1 令和元年国民健康栄養調査から
*2 シニアマーケティング研究室 whitepaper【50】プレシニアの高齢期に対する意識と行動(ソナエマーケティングの素地 プレシニアとシニアの現状と振り返り、未来に関する調査)