「85歳問題」という言葉を耳にした方もおられるのではないだろうか。2024年2月17日付の読売新聞から引用すると、「複数の病気や認知症があり、介護も生活支援も必要となる85歳以上の人口が2036年に1,000万人を超えると見込まれる一方、現役世代が急減する状況を指したもの」となっている。
本稿ではそんな85歳前後で、介護・医療・ADL等で、どのような変化が現れるのか、いくつかのグラフにしてご紹介していきたい。
85歳以降、介護受給率が一気に上昇
まずは、介護の面からファクトを見ていこう。
年齢があがるほど、介護保険受給者数は上昇する。以下のグラフを見ると、一気に上昇するのは、75-79歳から85-89歳。男女ともに受給者数も受給率も大幅に上昇する。
受給者数は男女ともに85-89歳が最大で、90歳以降は減少する。しかし受給率は、急こう配で上がり続けている。加齢に伴い必要とする人が急激に増えることが明白だ。
やはり85歳が画期になっていると言えよう。
この結果、介護給付を受ける人の半数強は85歳以上、80歳以上でみると74.2%が占めている。実に介護保険を使っている人の4人に3人は、80歳以上になっている。
2001年と比較すると85~89歳、90歳以上が全体に占める比率が大きく伸びている。人口の高齢化が、実際の介護保険利用者の年齢構成にも大きく影響。介護の問題がより高い年齢階級に大きくシフトしてきている様がわかる。
外来受療率は、80-84歳辺りがピーク
その後の低下から、生活の変化が推察される
医療の面ではどうだろう。本稿では「受療率」を物差しにして、年齢階級別、男女別の傾向を明らかにしてみた。受療率とは、人口10万人に対して、受療者がどれくらいいるのかを示した数字だ。入院受療率、外来受療率で、グラフの波形はいささか異なっている。
入院は85-89歳、90歳以上で大きく増加するが、外来では85歳がピークになっていない。医療ニーズの特性から考えれば、当然ともいえる。
高齢になれば通院自体が困難な人も増え、在宅医療を選ぶ場合もあるだろう。あるいは施設に入って施設内医療サービスを利用する場合もあるだろう。そもそも入院による受療率が85歳以降ぐっと高まるのを見ると、外来が80-84歳をなだらかなピークにしていることは、自然なのではないだろうか。
つまり84歳以下までは自宅生活をベースに通院もできているのが、85歳を境に異なる生活になる場合が多いのではないか。との推察もできる。
日常生活動作の不自由も、85歳前後で発生
最後にADL(日常生活動作)の観点から、「85歳問題」のファクトを見ていくことにしよう。ADL(基本的日常生活動作)、IADL(手段的日常生活動作)の両面から4つの指標の結果をご紹介しよう。
「15分ぐらい続けて歩いているか?」。男女合わせて、抜きん出て「できない」と回答しているのが80歳以上の女性。3割近くが「できない」としている。次に続く80歳以上男性が14.7%で、その割合は倍近い。
「バスや電車、自家用車を使って1人で外出しているか?」という設問に対しても、80歳以上の突出ぶりが目立つ。「できない」という回答が、42.9%。「している」と回答した人が47.8%なので、ほぼ拮抗した数字だ。
令和3年(2021年)高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査(内閣府)
「自分で食事の用意をしているか?」という設問で「できない」と回答した人は、80歳代男性が最も高く、24.4%。もっとも、75~79歳男性が23.3%、80歳代以上の女性が23.0%と、3つの年齢階級でほぼ同様の数字となっている。
最後は「階段を手すりや壁をつたわらずに昇っているか?」という設問。ここでもまた、80歳以上の女性が49.9%と半数の人が「できない」と回答している。
冒頭で紹介したように「85歳以上の人口が2036年に1,000万人を超える」といわれている中、85歳前後に生じがちな変化、そこから推測される高齢者ニーズは、ますます高齢化する社会全体の解決すべき課題である。
株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 特別顧問 中田典男
2024年11月11日
2024年6月24日
2024年6月3日