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80代以上市場に「親のための意思決定」

 幼馴染の両親は、86歳と82歳。夫婦で2階建ての自宅に暮らしている。父親は15年前、腰の手術を受けたがあまり思わしくなく違和感が残っているという。母親のかつての趣味は山歩きだったが現在は、歩行補助にキャリーカートが必要だ。しかし二人とも週に2回ほどジムに通い体を動かし、普段の買い物はネットと生協。庭は松だけプロにお願いして、それ以外は自分たちで手入れしている。
 親友の両親は、82歳と77歳。同じく夫婦で2階建てに暮らしている。母親は4年前に認知症を発症、スーパーの駐車場で迷子になるなど小さな心配事を発生させつつも夫婦で自宅生活を続けている。父親は高血圧を抱えているが、自らの料理で健康維持に勤しんでいるという。
 友達の父親は5年前に癌で他界、83歳の母親は娘夫婦と同居している。カートを片手に一人で外出できていたが、自宅で転んで骨折。心臓に持病があるので手術が大変だったという。リハビリ入院中だが、心臓と相談しながらヤル気を維持して身体能力を改善するのが難しく、このままでは退院後の自宅生活が思いやられるという。

 いろいろな課題を持ちながら地域・自宅で暮らす80代は、少なくない。

 かつて注目された高齢者市場はアクティブシニア向けに旅行や趣味の活性化、あるいはケアシニア向け介護関連が中心だった。しかし今、新たに取り組むべき対象として、自宅に住むほぼ自立している80代・90代に注目したい。

増加している、80代・90代
多くは、地域・自宅で暮らし続けたい

 80代、90代人口は今、1,230万人。全人口の1割を占めている。

 そして、地域・自宅で夫婦二人あるいは単独で暮らす人は、80代前半で55%、後半で45%。90代前半で32%、後半で17%。人口でいうと、520万人超の80代・90代が、高齢者だけで、地域・自宅で暮らしている。
 加えて、80代以上の半数以上が「現在の住まいに住み続けたい」という。

令和2年国勢調査 人口等基本集計
内閣府 平成30年度 「高齢者の住宅と生活環境に関する調査」

〇80代・90代は1千万人超
〇半分以上は高齢者だけで地域・自宅に住んでいる
〇半数以上が今の住まいに住み続けたい

 一方で冒頭ご紹介したように、80歳を過ぎると、多くの人が何かしらの課題を持つようになる。
 わかりやすい数値言うと、介護保険認定率が75-79歳の11.76%から、80-84歳で25.08%、85-89歳で47%と、80代以降、急激に上昇。
 さらに認知症有病率が2割を超え始めたり、日常生活で難しいと感じる活動が発生したり、80歳以降は不自由が発生しやすい。

2023年1月1日 現 在 (確定値)(令和5年)総人口
令和5年1月分(第1号被保険者数、認定者数等)より作成
内閣府 認知症施策推進会議資料「認知症年齢別有病率の推移等について」より作成
平成29年高齢者の健康に関する調査(内閣府)

 こうした変化とつきあいながら地域で日常を暮らすためには、生じる不自由に対処しなければならない。身近なところでいうと、子どもがいる人は子どもの力を借りる。いない人は行政やNPO、民間の力を借りることになるだろう。
 しかし高齢者自身は助けが必要になることをどの程度、想定しているのだろうか?子どもとの距離感について、どのように考えているのだろうか?
 子どもはどの程度、想定して、どのように考えているのだろうか?

年齢があがるほど、「同居希望」
「近居も同居もしたくない」は減少

内閣府 平成30年度 「高齢者の住宅と生活環境に関する調査」

「子どもの負担になりたくない」、「子どもに頼らない老後を送りたい」といった声が聞かれるようになって久しい。そうした風潮もあってか60代・70代の同居希望は2割から3割だが、80歳以上になると同居希望が5割になる。世代で異なる価値観も、影響しているだろう。しかし歳をとれば不自由や不安が大きくなってくることが、同居希望に影響を及ぼしているとも読み取れる。
 実際に同居や近居ができるかどうかは個々の事情により異なるが、子ども世代が何らか支援する必要性は高まる。その一方、離れて住んでいた子どもが親のことをすぐに理解して、支援することが可能だろうか?子ども世代は、親の支援に必要なことをどう捉えているのだろうか?

子どもが心配する介護の不安は
「肉体的負担」「精神的負担」「時間」「経済的負担」

 紹介したとおり加齢に従い不自由が増え、親は「近居や同居希望者」が増える。その背景には、「助けが要るとき、助けてほしい」があるだろう。そしてその先には、介護も発生する。しかし子ども世代は、そこで必要なことをどう認識しているのだろうか?

生命保険文化センター「生活保障に関する調査(速報版)」/2022(令和4)年度 より作成
生命保険文化センター「生活保障に関する調査(速報版)」/2022(令和4)年度 より作成
生命保険文化センター「生活保障に関する調査(速報版)」/2022(令和4)年度 より作成

 「介護する場合の不安の有無」を見ると、40代・50代で不安を感じている人は全年代より多い。不安項目別パーセンテージの合計で見ても、50代、40代、続いて30代で多いことから、他の年代と比べてより懸念していると見てとれる。
 内容は、肉体的・精神的負担、時間、経済的負担を不安とする声が多い。
 一方、介護が実際に始まるまでにはいろいろなことを調べて、考えて、決めなければならないことがたくさんある筈だが、それらは親が80代の子どもたちには伝わっているだろうか?
 もちろんこの調査では設問に対して不安項目の選択肢を提示しており、介護活動以前の懸念点を飛ばしている。しかしたくさんの意思決定に、子ども世代は関与する。

ケアの社会化で、こどもの役割は?
意思決定に必要な関係

 実際には、ケアは社会化している。介護保険を利用しないケア活動は難しいし、その申請から利用まで多くの工程を経なければならない。

 一人暮らしの母親が要介護となり同居し、施設入居まで4年間、働きながら自宅介護を続けた友人を見ていても介護保険と外部支援の利用は重要だ。
 多くの外部の力を借りるためにはたくさんの書類に目を通し、ケアマネと相談、選択・決定。事前予習にはネット情報も役にたつが、実情は介護経験ある地域の先輩から得なければわからなかった。

 では離れて暮らす親のために、こども世代はどうやって意思決定を行えるのか。という課題が見えてくる。
 親世代においても、子世代においてもそのつもりができているだろうか?

 子どもは親のための意思決定ができるほど、親のことを知っているか。地域周辺を知っているか。親は自分を知ってもらっているか。

 かかりつけ医は?近所づきあいは?最近の食事や活動具合は?

 地域で、自宅生活を続ける高齢者が増えるに従い、親子の日常に関する情報共有を進める仕組みは重要性が増す。今後、80代以上人口はさらに増大。社会的に大きなニーズになるだろう。

国立社会保障・人口問題研究所 出世中位・死亡中位推計(令和5年推計)

株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 石山温子