地方移住を望んだり、考えている人は増えている
新型コロナ感染症の流行は、人口密集のリスクをあらわにした。これまでも、「地方への移住」は一つのトレンドとして注目されてきた。ここにきて、多くの人が地方への移住を「夢や想像」としてではなく、現実の問題として考え始めている。コロナ禍でリモートワークが一気に進み、今の仕事を続けながら、地方に移住することも可能になった。
コロナ禍以前の調査では、内閣官房が2014(平成26)年に行った「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」によると、東京都在住者のうち地方へ移住する予定又は移住を検討したいと考えている人は、50 代では男性 50.8%、女性 34.2%、60 代では男性36.7%、女性 28.3%となっている。
コロナ禍後の内閣府の調査(内閣府 「第4回新型コロナ感染症の影響下に置ける生活意識・行動の変化に関する調査」)では、地方への移住に「強い関心がある」「関心がある」「やや関心がある」と答えた人(東京23区在住)はコロナ禍以前の1919年12月には28%だったが、2020年5月には32.8%、2021年9-10月では37.3%となっている(全世代)。
大都市圏での高齢化が問題に
コロナ禍だけでなく、高度成長期に都市部に大量に流入した団塊の世代が後期高齢者になり、大都市圏での高齢化も大きな問題として浮かび上がっている。厚生労働省の推計によると、高齢者数の増加数が多いとされるのが埼玉県、千葉県、神奈川県。2010年と2025年を比較した高齢者増加率は、いずれも約35%、東京都も24%の増加が見込まれている。
※2010年高齢者人口は「平成22年国勢調査」(総務省統計局)、2025年高齢者人口は「日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)」(国立社会保障・人口問題研究所)による
上記を背景に国は2015(平成27)年、内閣官房に「まち・ひと・しごと創生本部事務局」を設け、地方創生プランのひとつでもある「生涯活躍」構想をスタートさせた。その目的は都市部の高齢者の移住を促し、地方へ人の流れを作ること。高齢期を「第二の人生」と位置づけ、それぞれの人生のライフステージに応じて、これまで以上に健康でアクティブな生活を送るため、新たな暮らし方や住み方を求めて都会から地方への移住を促進するというもの。
年齢にこだわりなく、移住者や地元住民が役割を持てるコミュニティづくりを推進することで「活躍・しごと」「交流・居場所」「住まい」「健康」の4つの機能の確保。高齢者が移住先で役割を持ちながら、いきいきと暮らせる街づくりを目指すとしている。
「生涯活躍のまち」構想の具体化に向けたマニュアル(平成29年3月)の中で、「地方においては、人口減少傾向にある中、移住者も含めた地域住民がコミュニティの一員として役割や生きがいを持ち、それぞれの経験や能力を活かしてできる限り長く活躍できるような地域づくりが実現されれば、地方で暮らす価値や魅力の向上、人口減少問題の改善、地域の消費需要の喚起や雇用の維持・創出、多世代との協働を通じた地域の活性化など、地方創生につながる効果が期待されるところである」と述べている。
このままでは現在の居住地の2割が無人に
国土交通省も2014(平成26)年に発表した「国土のグランドデザイン2050~対流促進型国土の形成~」の提言で人口の一極集中を避け、地方への分散をすすめている。この提言の中では2050年における人口増減状況が示され、現在の居住地域のうち6割以上の地域で人口が半分以下に、2割の地域では誰も住まない無居住地域になると危機感を表している。
急激な人口減少により、中山間地域や農山漁村などにおいては、日常の買い物や医療など地域住民の生活に不可欠な生活サービスの維持・確保が困難になるおそれがある。このように人口減少は地域経済社会に甚大な影響を与えていくこととなるため、効果的な対策が求められる。
受け入れ側の各地方の自治体も「移住」先として、さまざまな受け入れ施策を講じている。多くの県や市町層のホームページに「移住」のおすすめのコンテンツを見ることができるが、こうした「移住のすすめ」は主に20代から40代、とくに子育て世代に向けたものである。各自治体は移住するにあたって様々な補助金を用意しているが、50歳までといった年齢やその地域での就労を条件とするなどの制限を設けている場合が多い。地域の高齢化が問題になっているところにさらに高齢者が増え、社会保障予算の増大など、デメリット多いと考えられているためと考えられる。
大分県豊後竹田市の移住定住支援センターWEBサイト
https://taketa-iju.com/
高齢者の移住は資産の地域分散に
高齢者の移住が地方に与えるのはデメリットだけではない。メリットは2つある。一つはその資産。もう一つは労働力である。今回はその資産について見てみたい。
令和元(2019)年の「全国家計構造調査 所得に関する結果及び家計資産・負債に関する結果」によると金融資産残高が一番多いのが60歳代、続いて70歳代、80歳以上となっている。全金融資産の63.5%を60歳以上が保有している。高齢者が地方に移住するということは、その金融資産も地方に移るということを意味する。
現在の高齢者世帯の都道府県別金融資産残高を見ると都市部が高く、地方が低いのが見て取れる。
現在住んでいる住まいを処分して移住する場合は、住宅資産の都市部と地方との差が大きいので、その効果はさらに大きくなる(令和元(2019)年の「全国家計構造調査 所得に関する結果及び家計資産・負債に関する結果」から)。
消費者としても高齢者世帯になると消費支出は少なくはなるが、激減するわけではない。一人当たりで考えると他の世代と遜色はない。夫婦のみの世帯で見ると30歳代の世帯より消費支出は多い(上記同調査より)。
高齢者の地方への移住は、他世代に比べ、資産を豊富に持つ高齢者による消費の拡大や、高齢者の労働力を確保することで、人口減少に歯止めがかかり、地域経済社会に好影響を与えることになる。そうしたことで移住する高齢者と都市部、地方の三者ともにメリットをもたらす効果が期待できる。今回は国や地方など受け入れる側の視点で見てきたが、次回は移住する高齢者にとってのメリット、デメリットを考えてみたい。
シニアマーケティング研究室 倉内直也
2024年9月13日
2023年9月7日
2023年3月20日