27年10月に公表された、スポーツ庁の「2014年度 体力・運動能力調査」。65~69歳男性・70~74歳の女性・75~79歳の男女で、過去最高の成績を更新したというニュースは、まだ耳新しい方も多いだろう。
65~79歳は6種目を測定する。内訳は、握力・上体起こし・長座体前屈・開眼片足立ち・10m障害歩行・6分間歩行である。
種目によっては5歳若い世代の1998年(調査開始時)と同等の成績を収めたものもあり、「若返り」が話題になったが、実際のところ、すべてがすべて手放しで向上しているのだろうか?
本稿では、この調査結果を仔細に見て、現状認識と課題発見に資することができるように努めてみたい。
尚本稿では、5歳刻み年齢階級別・男女別に切りの良い10年前(2004年度)のデータとの比較により論を起こしている。
図1.は握力。握力とは筋力を測定する種目で、これにより握る力だけではなく、全身の筋力も予測することができるらしい。
この種目では、男女とも10年間と10年後の数値に変化がない。年齢階級別にみれば、あえて言えば75~79歳女性の伸び率が、約5%と上げ幅のトップを記録していることくらいが特記されるに過ぎない。
次は上体起こし。(図2.) ご想像の通り、腹筋の力を測定するもの。この種目では、10年前と顕著な差が出た。図の中の破線は、10年前の5歳若い世代との比較ができるようにインディケートしたラインだが、65~69歳女性、75~79歳男女の3つのクラスターで5歳下の10年前の数値を上回っている。とくに70~74歳の女性では、10年前の一つ若い年代と同等どころか大きく上回っている。この3つのクラスターに関しては腹筋力は5歳若返っているといっても差し支えないだろう。
腹筋のトレーニングは力強い動きを支える他に、よい姿勢を保つという効能もある。それゆえ、ジムのメニューにも好んで取り上げられていて、馴染みのあるせいかもしれない。
続いて長座体前屈(図3.)。体の柔軟性を測定するもの。体が固くなるとケガをしやすくなるので、高齢者にとっては、とても大切な運動能力である。
この種目は年齢階級・男女別で大きな差が出た。
顕著な傾向が3つうかがえる。
1つは、男性に比べて女性のほうが圧倒的に成績がよいこと。
2つめは、10年前に比べて75~79歳の伸びが男女とも、それより若い年代を大きく上回っていること。
3つめは、65~74歳の男性おいては、10年前の数字を下回ってしまっていること。
75~79歳女性の伸びは見事というほかないが、それにしても10年前を下回る男性の成績はいささか心もとない。転倒リスクが高まる年代を迎え、少し心配なことではある。
図4.はバランス能力を測定する、開眼片足立ち。
この種目では、伸びしろの幅はそれぞれことなるものの、10年前より確実に向上している。
ふらつき度や体重を支える脚筋力がわかり、転倒予防の目安にもなるだけに、喜ばしいことである。
ことに70代女性の健闘が光っている。
図5.は10m障害歩行。これも、つまづきやすさの目安となる、高齢者には大事な項目である。
この種目は、70代前半・後半各男女とも、10年前の5歳若い年代と同等か、もしくはそれを上回った。文字通り、5歳若返った運動能力だと言えるだろう。総合的な調整能力が向上したのは朗報と言えるだろう。
最後に6分間歩行。言わずと知れた全身運動で、足腰の強さと全身の持久力を測定する。
息切れせず5分以上歩き続けることで、総合的な体力が判定できる。いつまでも自立して元気に生活するためには、この数値の向上が欠かせない。
この種目でも、70代女性2グループが、5歳の若返りに成功した。同男性陣は、残念ながら5歳分の若さを取り戻すまでには至らなかった。
最早、蛇足の感がなきにしもあらずだが、10年間の伸び率ランキングを作ってみた。図7.がベスト、図8.がワーストのランキングである。
上位に連なるのは、たいてい女性。ことに腹筋とバランス能力の向上が著しい。年齢的見れば75~79歳の年齢層である。
一方、下から数えると男性陣がずらりと並んでいる。柔軟性に難あり、の傾向が明らかに見て取れる。
総論として「元気シニア」とひとくくりにされているが、実際は非常に多様性に富んでいることが、いささかペダンティックな分析で明らかになった。
一喜一憂する必要などさらさらないが、自身のポジションをきちんと把握することで「百戦危うからず」に一歩近づくのではなかろうか?
日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男
2024年5月22日
2023年11月14日
2023年7月26日