「爆買い」が流行語大賞になり、その勢いはいまだ衰えを
知らないが、国内宿泊需要の動向はどうなのだろう?
観光庁の統計によれば、平成26年の国内宿泊旅行者数は、
前年比で、-7.2%の落ち込みを見せている。
旅行消費額で見れば、-9.1%と前年を1割近く割り込んだ。
シニア層の需要と言えば、真っ先に浮かぶのが旅行だが、
前年比の落ち込みは、実は60歳代以上で顕著なのである。
宿泊・日帰りを合算した国内旅行全体の数値でも、
観光・レクリエーションに目的を限定した宿泊旅行の数値でも、
60歳以上の層は、前年-8.8%の落ち込みとなった。
「シニアの時間消費=旅」という図式は当てはまらなく
なっていくのだろうか?
図1.は平成26年1年間の年代別旅行者数をグラフ化したもの。
純粋な「旅行」の人数を割り出すために、帰省・出張・業務などは
省いた数字になっている。
これを見れば、シニア層の旅行需要が他の年代に比べ、決して
突出しているわけではないことがわかる。国内日帰り旅行でやや
他世代を凌駕している傾向が見られる限りだ。
旅行者数の多い60代と40代は「旅行をしなかった」人も他世
代に比べ突出している。
日本の人口ピラミッドを考えれば、当然と言えば当然だが、
「シニア=旅行」をステレオタイプとして捉えることが
100%正しいと言いきれない理由がここにある。(図2.)
観光庁のデータを仔細に眺めてみれば、
シニアの旅行の大きなポイントが浮かび上がってきた。
即ち、旅行予算の配分である。
図3.は60歳以上の旅費総額と、その4大支出内訳をグラフ化
したものである。
やはり交通費が最も大きな支出項目であり、
続いて宿泊費と土産・買物費が拮抗している。
飲食費の構成比は思ったよりも低いことが特徴的だ。
シニアの支出構成比の特徴は、全年代の支出構成と比較する
ことで、さらによくわかる。(図4.参照)
交通費、宿泊費、飲食費はいずれも全年代平均を下回っている。
とくに飲食費は、平均の4分の3程度にとどまっている。
このデータを見る限り、シニアの旅行は意外に質素とも言える。
推測の域を出ないが、「近場で一泊」というシニアの旅の
傾向が垣間見られると言ってもよいだろう。
唯一、全年代平均を上回るのが、「土産・買物」の費目。
全体平均を約2ポイント上回っている。
別の角度からシニアのこの費目を見てみよう。図5.は、
旅費総額や各支出項目の費用総額に60代以上が占める割合を
見たもの。
旅費総額全体では、シニアの支出は32.5%だが、こと、
「土産・買物」の費目に関しては、36.8%までが、シニアの
支出で占められている。これは疎かにすべき数字ではない。
旅先での「土産・買物」のキーワードは、昔も今も「地域性」
だが、単なる「ラベル」ではなく、歴史や文化を踏まえた、
その土地ならではの質の高いものだ求められているようである。
また、バラマキ需要が終焉を迎え、土産物が自己表現の手段に
なってきているとの声もある。これはことに女性が女性に贈る
土産物に顕著らしい。
端的に言えば「ストーリーのある」ものが選ばれると言う
ことでもある。
シニアの「土産・買物」消費額は、約4,115億円。
日本国内のカップ麺の市場規模、4,100億円を凌駕する
巨大市場である。
「学び好き」のシニアに対して、物欲ではなく自己表現に
訴えることこそ、今、最も重要なシニア旅行需要取り込み策の
一つと言えるかもしれない。
日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男
2024年10月30日
2024年9月25日
2024年8月21日