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シニアマーケティング成功事例
-ミライスピーカー

 シニアマーケティングの視点で成功事例を他者の目線(傍目八目おかめはちもく)で見てみようという企画。あくまでシニア+マーケッターとしての私の独断と偏見(よく言えば洞察)であることをご理解の上で参考していただければ幸いである。
 第1回目は最近話題の手元スピーカー、「ミライスピーカーを取り上げてみたい。

https://store.soundfun.co.jp/

 人は歳をとると徐々に聴力が低下してゆく。その始まりは諸説あるが、20代から始まり、40代まではあまり自覚することが少ないといわれている。60代くらいになると、聞こえが悪くなったと自覚する人が増える。

 シニアのうち難聴と判断される割合は、70歳の男性で5人に3人、女性で2人に1人。日常生活で支障のある難聴者の割合は70歳の男性で5人に1人、女性で10人に1人という調査結果がある(国立長寿医療研究センター「NILS-LSA第6次調査2008-2010参加者における難聴有病率」)。

 また第一生命経済研究所の水野映子氏は「中高年層の難聴に関する現状と意識」の中で高齢者の約1割がおよそ軽度以上の難聴と推定している(LifeDesign REPORT2009.1-2)。令和3年10月1日現在の高齢者人口が3,621万人とすると、軽度以上の難聴の高齢者は約360万人となる。また、日本における難聴や補聴器装用の実情調査「JapanTrak(ジャパントラック)2018」によると、日本の難聴者率(自己申告)は11.3%で、自分が難聴であると感じている人は国内推計約1,430万人という大きな市場となっている。

 かくいう筆者も最近、「耳が遠くなった」と自覚していたが、先日の健康診断で「高音域の難聴」を指摘された。シニアにとって「耳が遠くなる」ことは「目が遠くなる=老眼」とともにごく普通のことなのである。

 日常の会話に加えて、テレビの音が聞き取りにくくなる。シニア世代はまだまだテレビの視聴時間は他の世代に比べて多い。総務省の通信利用動向調査(令和3年度)によると令和2(2020)年では30歳代でテレビ(リアルタイム)視聴時間とネット利用時間がほぼ拮抗し(1.03:1)、40代を境に(1.5:1)テレビが多くなり、50代では約2倍、60代は約4倍(いずれも平日の平均利用時間)になる。テレビの録画視聴を含めるともっと差は広がる。

 だから「テレビの音が聞き取りにくい」悩みを持つシニアはとても多いことが理解いただけると思う。とくに「ドラマのセリフが聞き取れない」いうシニアの声をよく耳にする。筆者も例外ではなく、NHKの大河ドラマを好んでみているが「背景の音楽」と「役者のセリフ」が聞き分けられないことがある。そこでつい、音量を上げると家内から「うるさい」とおしかりを受けることになる。

 これは加齢による「周波数分解能」の低下が原因といわれている、特に周波数の高い子音で始まる言葉が聞き分けにくくなる。NHKの番組では「高菜とさかな」「佐藤と加藤」「1時と7時」「パックとバッグ」などがその例として紹介されていた。

 筆者はその対策として「手元スピーカー」を利用している。そのことについては以前にあげているコンテンツを参照いただきたい。
シニア向け商品企画のヒントに-テレビ用手元スピーカー
https://nspc.jp/senior/archives/6571/

 この記事を書いた後、そのスピーカーは調子が悪くなり、現在のものに買い替えた。現在のものはメーカーも違うが問題なく使えていて、家内も耳が遠くなり、我が家には欠かせない存在である。最近テレビの画面が大きくなった影響もある。我が家のテレビは60インチ。見るのはやはり2~3mくらいは離れてみることが多い。薄型になり、テレビの音が聞こえにくくなったという話も聞く。

筆者が使っているのは無線式。電源は充電して使うもの

 で、前置きが長くなったが、今回のテーマである「ミライスピーカー」。最近テレビのビジネス番組など多くのメディアに取り上げられており、ご存じ方も多いのではないか。発売以来12万台突破(公式HPによる、2022年10月13日現在の受注台数)ということなら、1台、2万9700円として35億円以上の売り上げである。スピーカー1機種の販売額としては決して小さくない数字である。

 先に見たように、需要は必ずある。しかもかなり大きな需要である。ネットで検索すると日本製、海外製もふくめ多くの手元スピーカーがある。値段も2000円くらいから3万円くらいまでいろいろである。1万円前後が多い(筆者が使っているものも1万円くらいのもの)。その中で「ミライスピーカー」は2万9700円とハイエンドの商品である。

 キャッチフレーズは「音量上げずに、言葉くっきり」である。「言葉『はっきり』」ではなく「言葉『くっきり』」といっているところに、このスピーカー開発の思いが込められている。「はっきり」と聞くと「全体としてよく聞こえる」というイメージが想起されるが。「くっきり」というと「言葉が『際立って』聞こえる」というイメージになる。ユーザーの声として「セリフ音声が全面(多分前面の間違い)に出てくる感じ」と紹介されているがそのことを言いたいのであろう。

 プロモーションのメインキャラクターはミライスピーカーを持つ、俳優の高田純次(75歳)。「こだわりシニア」のイメージで、広告では「シニア」「高齢者」という言葉をほとんど使っていないが、このスピーカーがどのようなターゲットに向けての製品であるかが一目で分かる。「テレビを見るならミライスピーカー」とうタグラインでターゲット層であるシニアが、テレビの音が聞き取りにくいという悩みに気づく。

 ただ「大人の耳」という言葉を使っているが、私は好まない。ほかのシニア向けの製品やシニアで使われることが多いが「大人=シニア、高齢者」ではない。

 製品の特長あるデザインのインパクトも大きいが、大切なのはその「カタチ」にストーリーがあることである。創業者の父親が難聴になったことから始まり、音楽療法を研究する大学教授との出会い、若者が立ち上げるイメージが強いベンチャー企業をシニア世代が立ち上げ、音響メーカー(多くはデジタルに淘汰された)のベテランの知恵と経験に支えられて、このスピーカーが世に出ることになった。

開発ストーリー以下をご覧いただきたい。
https://soundfun.co.jp/story

 製品への信頼性という点で、開発したのが元JVCケンウッドというのが効いている。シニアは消費者としてのキャリアが長いので、製品やサービスに足しての信頼性を重視する。とくに通販やネットでの購入のように手に取ってみることができないときは躊躇しがちである。シニアはかつてのオーディオブームを経験し、その中で、JVCやケンウッドという音響メーカーに信頼感を持っている。

 大学との共同研究の成果ということで、性能、品質に対して対して安心感を持つに違いない。さらに働き盛りを「Japan as №1」で過ごしてきた世代には信頼性という点で「日本製」というのは効果がある。

 機能的には程よく「アナログ」である。テレビからの音声データは有線接続。いま流行りの「Bluetooth(ブルートゥース)」やWi-Fi接続ではないので、ペアリングなどの設定も不要。無線は便利だが、接続の難しさ、雑音や不安定さがシニアの不満の原因となる。我が家の手元スピーカーは無線だが、時折、雑音が入って聞き取れなくなる。原因は不明だが、何らかのノイズ電波のせいだろう。

 こうした特長があったにしても、眼に見えない「音」のこと、本当によく聞こえるのか不安を持つシニアは少なくないだろう。そこで、シニアの背中をもう一押しするのが「返品保証」制度。公式サイトからの購入だと、「60日間返品保証」がある。返品の際の送料も無料となっている。これなら使ってみて納得がゆかなければ返品できる安心感がある。「それだけ自信があるのだろう」という肯定的な気持ちも生まれやすい。

 帰ってきた製品は認定中古品として5000円引きで販売している(こちらは返品不可、1年保証つき)。

 ユーザーの声も利用している。サイトではAmazonでの購入者の声を見てほしいと訴えている。すでに2,000件近いコメントが寄せられており、評価は3.9。比較的好意的な意見が多く、他の人の意見を重視する傾向の強いシニアへ追い風になっている可能性がある。

なぜ「ミライスピーカー」がシニアに響くかのまとめ

1.「シニア」「高齢者」という言葉を使わず、キャラクターでわからせる
2.製品(開発)に「物語=ストーリー」がある
3.わかりやすい見た目(扇型)のインパクト
4.シニアの信頼感を得るための工夫=老舗音響名門メーカーJVC、ケンウッド由来+大学との協働研究、大手企業の採用事例
5.シニアが安心できる日本製,、しかも返品保証がある
6,VOC(お客様の声)の活用=Amazonの2,215個の評価(2022年12月15日現在)
7.程よいアナログ加減=「有線主義」
8.テレビ、新聞というレガシーメディアとネット広告のハイブリッド活用
9.電話での問い合わせ対応(シニアには不可欠)
10.単純な構造のランディングページ=ワンスクロールで完結、難しい技術用語をほとんど使っていない

 どうだろうか?ここにはあなたの製品やサービスをシニアにアピールするためのヒントがあるはずである。

    株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 倉内直也