国民生活基礎調査には、悩みやストレスを抱える人を対象に、最も気になる悩みやストレスを一つだけ選んで問う設問がある。数ある選択肢の中で、やはり多いのは、仕事・お金・健康だ。項目によって、当然だが、若い世代に高いものとシニアになって感じる悩みもある。回答の多くは、予想される事実を裏切らないが、大きな分岐点になっている年齢階級は、設問によって異なる。本稿では、そのような「分岐点」が奈辺にあるかを追ってみたい。
図1.は、収入・家計など、お金に関することが最大の悩みと答えた人の割合。どの年齢階級と見ても、意外に低い結果となった。加えて、年齢階級間でもそれほど大きな開きが認められないのが、この項目の特徴。わずかに55~59歳で15%を割り込んでいるが、40歳から64歳にかけて、15%を超えている。70歳代前半にもなると、11.6%とやや低くなるが、それでも10%を超えている。10%を割り込むのはようやく、70歳代も後半になってから。お金の煩悩から解き放たれるには、どうやらこの年代まで待たなければならないようだ。
図2.は自分の病気や介護が最も大きな悩みと答えた人の割合。年齢を加えるほど、その率が高まるという、非常に正直な結果となった。しかもその増え方は、指数関数的に一気に増加傾向が増しているのが大きな特徴だ。その伸びの起点は70歳代前半。それ以上になると、増加幅は一気に大きくなり、85歳以上では過半数に達している。「70を超えると衰える」とは、巷間、よく囁かれることだが、図らずもデータ的に検証された格好になった模様だ。
図3.は、自身ではなく、家族の病気や介護を最大の悩みと答えている人。50歳以上84歳に至るまで、軒並み10%を超えている。中高年以降にとって、家族の病気や介護は、年代を問わず、幅広い層の悩みになっていることがわかる。
その中でも、最も比率が高いのが60~64歳の15.6%、次いで65~69歳の14.2%、55~65歳の13.9%と続く。比率で見ると若干の差があるようだが、実数値では、この3つの年齢階級では、ほとんど差がない。老老介護の多くを担っているのが、これらの年齢層であることが明らかになった。
悩みやストレスの主要な原因の最後の一つが、自分の仕事について(図4.)。自分の病気や介護と真逆で、年齢階級が上がるほど、指数の逆関数のように、大幅に比率を減少させている。
ここでの分岐点は、60~64歳にあるようだ。55~59歳から、比率で8.2%、実数で約42万人も減っている。因みに2019年現在で、60~64歳の就業率は70.3%に達している。「仕事を持ちながら、その悩みやストレスがない」のは、依然として60歳定年、65歳まで雇用延長という制度下で、負荷が小さくなってきていることの表われでもあろう。(下に続く)
株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男
2022年10月27日
2022年8月17日
2022年4月11日