3月19日のコラムで、「近居を理想とする人は、全体の32%」という
データをご紹介したが、その実態はどうなのか?
平成25年の「住宅・土地統計調査」に拠れば、
夫婦のみの高齢者世帯から片道15分未満に住んでいる子世帯は、25.2%。
4軒に1軒の高齢者夫婦が実際に「近居」していることになる。
「近居」の定義をもう少し広げて、「片道1時間未満」とすれば、
約55%と、過半数を占めるに至っている。
平成20年の同データと比べてみれば、6.3%も伸びている。
意外なのは、夫婦世帯の方が単身世帯の近居比率を上回っていること。
平成20年比の伸び率でも、夫婦世帯の方が顕著である。
ある意味、より積極的に「近居」を求めていることの一つの現れでもある。
(以上、図1.図2.参照)
一方、親世帯、子世帯、それぞれはそれぞれの立場から
「近居」のメリットをどのように認識しているのだろうか?
図3.は大阪市の調査によるもので、平成26年実施の新しいデータである。
3月19日のコラムで紹介した内閣府のデータと様相を異にする部分もあるが、
大阪ローカルなデータだけに、よりドライな本音が見えているとも思える。
親の側、子の側双方の利害が共通しているのが3項目。
家事や育児のサポートについては、両者はWin・Winの関係にある。
「歴史や文化の継承」という項目についても、
両者の意見はほぼ意思の一致を見ている。
ここらあたりは、まず、波風の立たないところだと言ってよいだろう。
これらとは対照的に、親の側と子の側で大きくニーズが異なるものがある。
親の側はメリットと捉えているが子の側では、
必ずしもそうではない項目が2つ。即ち、
① お互いの側との付き合い・交流が密になり好ましい
② 孫の躾や教育を手伝ってもらえる、あげられる
総じていえば、親の側では精神的な援助に対してヤル気満々なのに対し、
子の側ではさして多くを期待していないことが窺える。
このあたりの「温度差」を考慮に入れないと、
3世代での時間消費をいくら喧伝しても「暖簾に腕押し」状態になりかねない。
逆に、子の側が大きなメリットと思っているのに、
親の側では決してそうは考えていないという項目も同じく2つある。
③ 介護や身の回りの世話、老後の面倒をみてあげられる、もらえる
④ 安否が確認できるので、確認してもらえるので、安心である
平たく言えば、「子の心配、大きなお世話」といったところか?
一般的には、親の側は「経験・知識・情緒」で子世帯をサポートし、
子の側はそれとは逆に親世帯の「身体面の衰え」をカバーする。
この両者が相まって、相互扶助の近居が実現するというのが、
物語として美しいが、現実にはそうはいかないものらしい。
ステレオタイプの考え方に、いたずらに踊らされることなく、
両世代の微妙な「温度差」を踏まえて、戦略を構築できるかどうか?
マーケターの腕の見せ所でもある。
日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男
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