2012年度の消費者庁「消費者意識基本調査」に興味深いデータがある。
自身が高齢者になった際の不安点を問うたものだ。(図1)
全年代を通じての結果のトップ3は、
1 表示や説明が見づらくなる
2 買い物に行くのが困難になる
3 調理や食事の用意が困難になる
この上位3項目が、際立った不安項目として
認識されていると考えてよい。
この上位3項目には共通した特徴がある。
いずれも「身体機能の衰え」という不安要素なのだ。
①は視覚及び脳の衰え、②は運動能力の衰え、
③は意欲の衰えと分類することもできる。いずれにしても、
全方位的な身体の力の低下に大きな不安を抱えている様が窺える。
強引な商法や多彩な詐欺の手口など被害者になる不安より、
自身の衰えの方がはるかに強い不安要素になっている。
充分に肯える結果であると思う。
同じ設問を、年齢層別に切り分けてみると、
さらに興味深い事実が浮かび上がってくる(図2)。
上位3項目は同じでも、その傾向に明確な違いが出てくるのだ。
「買い物に行くのが面倒になる」
「調理や食事の用意が困難になる」という2項目は、
いずれも40代で不安がピークに達したのち、
50代・60代・70代以上と、年齢が上がるほど、
その不安は急速に少なくなってゆく。
一方、「表示や説明等が見づらくなる」は、
50代を不安のピークにして、年齢が上がるほどに減っては行くものの、
減り幅は、他の2項目に比べて著しくない。
この2つの傾向は一体何を意味するのであろうか?
運動能力や意欲は、40代の人が恐れるほど、衰えていないと言える。
もしくは、問題を抱えている人とそうでない人に
二極化されているとも受け取れる。
一方で、目や脳の働きの衰えは万人にほぼ平等に訪れる。
その結果、「表示や説明が見づらい」という訴えは、
年齢層に関わらず、悩みとして残り続けるのではないだろうか?
一言で「表示や説明が見づらくなる」と言っても、
その意味する範囲は非常に広いので、一概には言えないが、
総務省がシニアに対して取説の使いにくさを問うた、
調査結果が一つの手がかりにはなりそうだ。
これに拠れば、取説の使いにくさのワースト3は、
1 説明書のどこに自分の知りたいことが書いてあるのかわからない
2 説明書を読んでも、英語やカタカナが多く言葉の意味がよくわからない
3 説明書の文字が小さくて読めない
この調査の対象にはPC画面操作やインターフェイスの
わかりやすさも含まれているが、
上記の3項目はすべての文字メディアに共通することだ。
とくに「英語やカタカナ」に対する拒否反応は、
シニアだけのことではないので、
より細やかな気遣いが必要になってくる。
文化庁による「国語に関する世論調査」に拠れば、
漢字を用いた語とカタカナ語のどちらを使う方がいいと思うか
という設問では、おしなべて圧倒的に
「カタカナ語NO!」という結果になった。(図3)
とくに、プライオリティ(優先順位)→89.6%の人がNO!
マスタープラン(基本計画)→82.9%の人がNO!
コンセンサス (合意) →84,2%の人がNO!
全年代でこれだから、シニア世代では何をかいわんやであろう。
佐賀県では、10年以上前から
『いわゆる「お役所言葉」改善の手引き』と銘打って、
わかりにくい公文書などの言葉づかいを戒めている。
→『いわゆる「お役所言葉」改善の手引き』
その目次を抽出したのが図4であるが、
これ自体が一つのチェックリストとして機能できるほどだ。
内容も非常に優れたものになっている。
他の自治体で同様の取組みがあるのかどうか、
寡聞にして知らないが、企業対消費者コミュニケーションの
現場でもぜひ活かしたいものである。
日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男
2024年10月11日
2024年5月22日
2023年9月26日