2024年5月22日
2021年2月、大阪でコロナによる緊急事態宣言が出されているさなか、日替わり店主の店『わっくCafé』はオープンしました。
場所は大阪府富田林市のURの金剛ニュータウン、金剛銀座商店街の一角。
設立メンバーは8人。出会いは、富田林市金剛地区の再生のために始まった「金剛地区まちづくり会議」*でした。(*富田林市金剛地区まちづくり会議について)
誕生から50年が経ち高齢化が進み活気がなくなっている、金剛ニュータウンに元気を取り戻すためには何が必要か?住民や関係者が、「金剛地区まちづくり会議」で話し合いを3年間続けました。
この3年間の会議から金剛ニュータウンに必要なのは、「常設の居場所」という一つの答えが導き出され、常設の居場所づくりプロジェクトが誕生。2020年に男性6人、女性2人の有志で、一般社団法人わっく金剛を立ち上げました。「わっく」には、つながる気持ちが《湧く》、みんなの思いが《湧く》、わくわくする気持ちが《湧く》という願いを込めています。
定年退職をした男性5人を含む、30代から80代の理事が、店舗のメンテナンス、物品管理、ホームページ、広報等の役割を分担しながら運営しています。
プロジェクトを法人化、開店するまで
「常設の居場所」といっても、当初、具体的なイメージをメンバー内で共有できていませんでした。富田林市職員や社会福祉協議会職員も加わって、講師を招いて勉強会をおこなったり、見学に行ったりして、1年間、どんな常設拠点にするかの検討を重ねました。
その結果、誰でも出入りできるCaféを開き、その店主になって居場所を開いてくれるオーナーさんを金剛地区内外から募り、常設の拠点を街の居場所として維持しつづける仕組みで運営することが決まりました。
実現には、まず場所の確保が必要です。店舗物件を複数人が共同で借りるためには、法人格が必要。そのためにみんなで出資して、一般社団法人わっく金剛を立ち上げました。自分たちの計画に自らのお金を支払った段階 で、メンバーの主体性も一気に高まった気がします。
しかし法人化から事業開始までの1年は、コロナに歩みを止められ、人が集うこと自体がタブーとされ、『わっくCafé』は逆風からのスタートをきることになります。居場所づくり関連の助成金申請はことごとく採択されず、飲食店の時間短縮の要請がされている中、イベントや会議の中止が続きました。
法人化の段階で行政は後方支援に移行し、補助金の案内やUR店舗を借りる時の協力、広報などで法人の出発を応援してくれました。行政が先導した街づくりから、自立的な法人運営につなげた発展のプロセスは、住民主体の街づくりを考える自治体にとっても好事例ではないかと自負しております。
◆日替わり店主の仕組みとは
『わっくCafé』がオープンして3年が経っています(2024年5月17日現在)。飲食業、製菓業ができるよう、市の補助金を得て改装をしています。共通で使用する調理器具や食器もそろえています。登録オーナー制度は、日替わりで好きな時に好きな店を開くことで、居場所づくりを実現する一員になってもらう仕組みです。
オーナー登録料は3,000円。開店したい日が決まったら、ネットから予約をします。開店から掃除をして閉店をするまでがオーナーさんの責任で、店主を務めていただきます。コーヒーやジュースなど6種類のドリンクは運営側で準備をしています。これを共通ドリンクとして300円のメニュー表も作っていますが、オーナーさんの工夫で、単価を変えたり、独自メニューを加えてもらうことは大歓迎です。閉店後、店舗利用料と売り上げたドリンク1杯につき50円を電子決済で支って帰ります。売り上げは、オーナー自身が持ち帰る仕組みとなっています。
【利用料】
・午前枠 8時~14時 3,000円
・午後枠 15時~21時 3,000円
・1日枠 8時~21時 6,000円
オーナーの開店日を増やすために、2日連続で予約した場合は、2日で6,000円のキャンペーンを実施しています。
『わっくCafé』の担い手オーナーさんは…
オーナーさん探しが始まった当初は、知り合いばかりでしたが、知り合いの知り合いに登録者が広がり、1年たった頃からは、ホームページをみて登録を希望する人がいらっしゃっています。現在のオーナー登録者は137人(2024年4月30日現在)。いつかお店を持ちたい若者、料理好きの女性グループ、パン教室の先生と生徒、喫茶店のマスターにあこがれる高齢男性、趣味の仲間を増やしたい作家、学生グループなど、年齢層も出店目的も多種多様です。自分の店をもつためのステップとして、『わっくCafé』用しているオーナーさんもいます。出店頻度はそれぞれですし目的も異なりますが、みなさん自分の得意を披露する場として、また自分自身の居場所として『わっくCafé』を開店されています。
そのことは、オーナーさんだけでなく、お客さんとして来られる方の居場所につながっているようです。高齢の女性がたからは、「立ち寄る場所ができて、散歩することが増えた」「知り合いが増えてよくしゃべるようになった」「食べることが楽しくなった」という声もいただいています。新しいオーナーさんのコーヒーをのみたいから、と店の前のカレンダーを眺めたり、足しげく通ってこられる高齢男性も増えてきました。
◆『わっくCafé』の壁面ではBOXショップのオーナーさんも活躍
『わっくCafé』の壁面には、いろいろな手作り品が並んでいます。実はこれ、1BOXを月1000円で利用してもらい、展示販売をおこなえるBOXショップなんです。ガラス細工、編み物、手縫いの作品、革細工、ポストカードから、自家焙煎をしたコーヒー、お気に入りの雑貨まで、多様な品が販売されています。ご高齢の男性が、自分の竹細工の発表の場として販売はせずに1か月間、展示会をしたこともありました。「すごい!」「どうやってつくるんですか?」といろんな人に声をかけられ、1か月間は毎日わっくCaféに訪れて、たくさんの方とお話を楽しまれていました。
◆カレー食堂という名の、こども食堂を開催
ボランティアさんの力をかりて、月に2回はわっくCaféで「カレー食堂」を法人独自の活動として実施しています。日替わり店主は、オーナーとして主役になる場ですが、誰かのお手伝いをしたい、という希望を持たれる方も多くいて、開設時からボランティアを希望くださる方や、寄付をくださる方が途切れることなくいらっしゃいます。
◆日替わり店主の店『わっくCafé』運営 3つのコツ
『わっくCafé』のオーナーをしても、金銭的に大きな利益を生み出すことは難しいのが現実です。なので運営側としてまず第一に大事にしていることは、オーナー自身が楽しめる環境に心を配ること。わっくCaféが楽しい場所であり、自分が主役になって小商いができる場。自己実現の場であったり、人とのつながりが生まれる場であったりしている空間を楽しめるような工夫は日々考え続けています。
また、現状は運営者である理事のボランティア精神によって成り立っています。ですので、第二に大事にしていることは、省エネ運営。運営者の負担を最小限にするための工夫をし続けることです。ルールはできる限りシンプルに、管理的なこともできるだけ手放し、それぞれの自主性に託していけるようにしています。
長く活動を維持していくためには、時々初心に立ち返ることも必要です。そこで第三に大事にしていることは、未完成を楽しむというマインドを、発信し続けること。街づくりや居場所づくりに完成はなく、常に進化していくものであるというメンタリティを大切にして、こうあるべきもの!から解放されて自由な発想と展開を大いに称賛することを意識しています。
コロナ緊急事態宣言中に「わっくCafé」を開いて3年・・・
世の中が我慢しているときに、楽しそうに人が集まってくる場所は、すべての人に歓迎された訳ではありません。怖い、危ない、常識がないとのお叱りもずいぶんいただきました。
2月の寒い冬空の中、扉と窓を全開にしながら、マスクをつけての開店には、勇気と覚悟が入りました。それでも、開いた時にまずやってきたのは、不思議と高齢の方々でした。
「急に人との繋がりがなくなって不安で仕方がない」「直接、顔をみて会うと安心する」「コロナよりも、日常がなくなることが怖い」「戦争を生き抜いてきたんだから、コロナくらい怖くない」等の声を聞いて、人が直接対話する場の大切さを改めて実感しました。ウイルスよりむしろ、人の眼が怖い中でも、人は人を求めて集ってきた事実を、忘れることはできません。楽しくない時だからこそ、楽しい場を人は切望するのだと体感しました。
10年後のわっくCaféは・・・
毎日違う店主によって、毎日『わっくCafé』が開いている。オーナーによって提供されるものは多彩で、国際的な場となったり、若者のチャレンジの場になったりしているかもしれません。さらに、今の私たちが想像もしていない、利用の仕方に変わっていることもあるでしょう。そして、あらゆる困難に出会いながらも、10年後も進化しつづけている『わっくCafé』で、客人としてゆったりコーヒーを飲めたら嬉しいです。
岡本聡子氏
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