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シニア向け商品企画のヒントに-テレビ用手元スピーカー

最近、我が家での「当たり!」商品はテレビ用の手元スピーカー。いくつかのメーカーから出ているが購入したのはツインバード工業株式会社のテレビ用ワイヤレススピーカーシステム(送信機と受信機のセット) 「テレビの音が手元で聞こえるスピーカー」AXV-913X1W。Amazonにて7,000円で購入。

◆メーカー商品サイトはこちら:http://www.twinbird.jp/products/avj131.html(生産終了品)

「はっきり」ボタンを押すと人の声(セリフやアナウンス)が聞き取りやすくなる

シニアの悩みは「セリフの聞き取りにくさ」

きっかけは年をとって耳が遠くなり、音を聞き分ける能力も落ちてきたと実感することが多くなってきたためである。NHKの大河ドラマのファンなのだが、劇中のセリフが聞き取れない。音を大きくするとバックの音楽ばかり大きくなって、ますます聞き取りにくくなるし、アンチ大河のカミさんからは「うるさい」とクレームがつく。

懐かしい黒澤映画を見返してもほとんどセリフが聞き取れない。とくに三船敏郎は滑舌が悪くて「七人の侍」のセリフはほとんど何を言っているのかわからない。外国向けの英語テロップでようやく意味がわかる…ということもある。知人の奥さんが韓国ドラマにはまったきっかけは、「日本のドラマはセリフが聞き取りにくい。韓国ドラマはテロップがでるのでわかりやすいから」だそうだ。シニアは「聞こえに」に悩みを抱えている。

5年ほど前に大型の薄型液晶テレビに買い替えてから、音が気に入らず、何種類かのスピーカーをつないでみた。しかし「音」というより「聞こえ」があまり改善されず、使い勝手も悪いので、結局使わなくなってしまっていた。シニアには大迫力のハイ・ファイサウンドよりセリフが明瞭に聞こえるほうが大切なのだ。このへんのところをメーカーはよく理解していないのではないか。

聴力の衰えは自分で気づきにくい

加齢による聴力の衰えを調べているうちに、自分もかなり聴力が落ちているのではということに気がついた。健康診断の「ピー」音で最低限の聴力は確認できても「聞こえ」の衰えは確認できない。加齢による衰えは視力だけではなく、聴力もゆっくりと長い間のうちに衰えてゆくので、自覚症状が出にくい。人にいわれて気づくことも多い。

一概に「年をとって耳が遠くなった」といっても実はさまざまな聴覚の衰えがある。まずは聞き取れる音域が狭くなり、高い音が聞こえにくくなる。さらに「リクルートメント現象」(補充現象とも)と呼ばれる現象がある。小さな声(セリフ)は聞こえないにもかかわらず、大きな音(BGM)になると異常にうるさく感じることをいう。大河のセリフが聞き取りにくくなっているのはこの現象のせいもあるだろう。

そんなことを感じているときに加齢によって聞き取りにくくなってくる低音や高音を抑え、人の声の周波数帯域を強調してセリフが聞き取りやすくなるように調整するスピーカーの存在を思いだした。以前は自分には関係がないと関心を持たなかったが、改めて調べてみるといろいろと市場に出ている。

共通しているのはシニアが音声を聞き取りやすくするための音質調節機能だが、なかにはセリフやアナウンスをゆっくりと喋ってくれるものもある。画面とのシンクロはどうなるのか気になるが、喋りには「間」があるので可能になるのだろう。

シニアの琴線に触れる機能は

そうしたスピーカーでいくつか候補があったが、これまでの経験から「聞き取りやすさ」に加え、下記のような機能を求めた。

1. ワイヤレスであること
2. 操作が簡単なこと(リモコン操作は不可)
3. ACアダプタが使えること
4. 電池は内蔵の充電池でなく、一般の充電池が使えること
5. 送信機はテレビにつけっぱなしで問題ないこと
6. 1万円以下で購入できること

ということでツインバードの「テレビの音が手元で聞こえるスピーカー」を購入。これが予想を遥かに超えた効果をもたらしてくれた。

まず当然だが聞き取りやすい。「はっきり音」のボタンを押すとセリフやアナウンスがはっきり聞こえる。しかも手元にあるのであまり音量をあげずにすむため、一層聞き取りやすい。

いまのテレビは大画面。結構離れた位置から見ることも多い

手元で聞く以上、ワイヤレスが望ましい。その点は使ってみて、その便利さは予想以上。我が家の場合はリビングから、食事をしながらダイニングから、カミさんは炊事をしながらキッチンからも見ている。そんなときスピーカーを手元におけるので、聞き取りがすごくラクになった。

さらにごく近くに置いて音量を下げると、他の人にほとんど音が聞こえなくなる。つまりヘッドホンで聞いているのと同じ状態になる。ヘッドホンやイアホンはつけているのが煩わしいがこれならそんなこともない。

シニアになるとテレビの視聴スタイルが変わる

子供が独立して夫婦だけになるとお互いの見るTV番組が「先鋭化」する(笑)。みんなで公約数的な番組を見る必要がなくなるからだ。だから相手の見ている番組の音がうるさい、気になる。これまで我が家ではヘッドホンを使っていたが、やっぱり煩わしい。これなら気兼ねなく自分の好きな番組を離れたところからでも見ることができる。夫婦円満にも役立つ。子どもたちが孫を連れて帰ってきたとき、テレビの音で起こしてしまうこともない。

ワイヤレスだからコードを引っ掛けて転ぶ心配がない(ただし、ACアダプタを使っているときは電源コード引っ掛ける難点がある)。シニアの安心・安全には大切なことだ。

設置も極めて簡単。送信機(これはACアダプターを使う)をテレビのそばに置いて、ステレオミニジャックをテレビのイアホン端子に挿すだけ。はじめはテレビ本体の音も出たほうがよいと思い、音声出力端子から変換コードでつないでいたが、結局、テレビ本体の音を聞くことはなくなった(ステレオではない)。

接続の仕方がわかりやすく表示されている

スピーカーは円形の無指向性なので置く場所をあまり気にせずにすむ。どこにおいても聞きやすい。

ワイヤレスの方式は2.4 GHz帯 GFSKデジタル変調方式。ブルートゥースのようにペアリングの必要がないし、赤外線と違って間に障害物があっても大丈夫。ただし、電子レンジを使っているときは相当、雑音が入る。カタログスペックで到達可能距離は約30m(見通しの良い障害物のない場所)だが普通に使っていて問題はない(TV画面が見えないと意味ないので)。

シニアが使い続けられる提案を

スピーカーの電池の持ちだが、単 3形アルカリ乾電池をつかって連続15時間(カタログスペック)。私は充電式電池を使っているが、リビングで使うときはAC電源を使うのでだいたい1週間に一度くらいのペースで交換している。このことはこのスピーカーを使う上で重要なポイントなのだが、メーカーサイトやECサイトのどこにも書いていない。

1週間に一度アルカリ電池を交換していたら、相当な費用がかかる。しかも常にストックしておかなくてはならない。AC電源だと最大のメリットのワイヤレスでなくなってしまう。そうすると結局使わなくなってしまう。

本来は充電池8本(4本ではない)と充電器をセットにして販売すべきなのだ。そうすれば、いつ電池が切れてもすぐに交換できる。さらに電池切れ予告機能があるのでランプがつけば交換しておくようにしている。見たい番組での途中で電池が切れたら興ざめだ。内蔵式の充電池ならこのようなことができない。このあたりの提案があればもっと売れるはず。

4本を使っている間にあとの4本を充電しておく

使い勝手も悪くない。大きな文字、大きなボタンで操作しやすい。シニアを意識した配慮が感じられる。テレビの電源を切ると自動的に送信機とスピーカーの電源が切れる(5分後)のも忘れっぽいシニアにはありがたい。

わかりやすい説明が本体にもプリントされている

シニア向けだから…というデザインはいただけない

ただ、残念なのはそのデザイン。真っ白のツボのような形。この製品デザイナーには申し訳ないが、これでは「骨壷」を思い出してしまう。カミさんは「リビングにはちょっと…」といっている。キッチンにはいいらしい。操作部分もふくめ炊飯器のイメージだそうだ。無指向性ということで円形は理解できる。せめて本体の色を上品な淡いシャンパンゴールドくらいにしておけばイメージは違ったものになったに違いない。惜しい!

残念ながらこの商品は廃番になってしまった。シニアの加齢によるギャップを埋めるとても良い商品なのだが。シニアが使っての感じるメリット、ありがたさを上手く表現できていなかったのかもしれない。以下にさらっと書いてあるのだが、あと数歩踏み込んでほしい。

http://www.twinbird.jp/blog/detail.php?product_id=25061

先に書いた充電式電池とセットにする提案など、もうひと工夫で爆発的ヒット商品になる可能性を秘めていると思うのだが…いかがだろう。

株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 倉内直也