シニアの日常の買物行動の実態はどうなっているのか? 2017年3月に発表された「高齢者の経済・生活環境に関する調査」(内閣府)では60歳以上の詳細なデータが報告されている。
本アーティクルでは3回にわたって、買い物の仕方、買い物サービスの利用実態と理由、買い物に行く手段、そして生活圏にあるインフラの充実度を探ってみることにしたい。
現状では、買い物行動に問題はないが、近い将来に遭遇する明らかな課題も見えてきた。また、大都市と町村でインフラの整い方に大きな差があることも改めて明らかになった。
まずはベーシックなデータから。
図1.は、「自分でお店に買いに行く」か、「サービスを利用したり、支援を受けている」か、日常の買い物の仕方を二択で選んでもらった結果である。
抽出したグループのすべてにおいて「自分でお店に買いに行く」が60%以上を占めていて、これを見る限り「買い物難民化」の懸念はそれほど要らないと思われる。「自力」の比率が最も高いのが、60~64歳の女性で約95%。次いで65~74歳の女性で約88%。それに住居権利属性の「賃貸」が81%と続き、この3グループが自力更生トップ3を占めている。
一方で「サービスを利用したり、支援を受けている」比率が最も高いのが75歳以上の男性で、約38%と群を抜いている。次いで65~74歳の男性でこれも30%越え。続いて75歳以上の女性で約30%。以上がトップ3のグループとなる。
概していえば「他力本願」派は圧倒的に男性が多いようだ。75歳以上の肉体的な衰えはむしろ女性に顕著なので、この数字は、買い物に不慣れなのと、何をするにも配偶者頼りの世代特性の反映であるかもしれない。
では、「買い物サービスを利用したり、支援を受けている」理由は何だろうか? 図2.は、「体力的に難しい」と回答した比率を、グループに分けて比較したものだ。
年齢別、性別に見れば、男性より女性が、年齢層が高い方が、体力を理由に買い物サービスを利用したり支援を受けたりしている傾向が明らかになった。ことに75歳以上の女性で、体力を理由に挙げる比率は顕著に高くなり、60%に上る。これは75歳以上の女性の18%に相当している。つまり、75歳以上の女性の5人に1人が、「体力低下による買い物難民化」しているということだ。
サービスの利用や支援の享受理由は体力だけではないが、他の理由は「体力」に比べると低率だ。
図3.は「距離や時間」を理由に挙げた比率。体力理由に比べれば、ずいぶん少ない。グループ間の違いもあまり見受けられない。しいて言えば、75歳以上の女性が、他のグループからやや抜きん出ていることぐらい。
図4.は、「気軽だから」という肯定的(?)理由からサービスや支援を受けている人の比率。ここでは男性が顕著である。「ものぐさ」と言ってしまえば、世の男性諸氏に失礼だろうか?
「気軽」を理由に挙げた人は町村、即ち郡部に多い。コミュニケーションが密で、人との垣根が低いという長所が上手く活かされているのかもしれない。
いずれにしても、今は「買い物自力更生派」が主流を占めているのだが、徒歩で行くのか、それともクルマ等を使って行くのかを調べた結果が、図5.。若い人ほどクルマ、女性より男性がクルマという傾向がはっきり現れた。
この結果と、「体力理由の買い物難民化」傾向は、典型的な正の相関関係を示している。
75歳以上の女性の徒歩比率は、半数を上回っており、他の性・年齢別グループでは圧倒的に多い。逆にクルマ等の運転により買い物に行く人は、20%に満たないなど、他のグループより圧倒的に少なくなっている。
翻って男性は、75歳以上でも約65%がクルマ等に頼っている。実はここに大きな陥穽が待ち受けているのである。
(中に続く)
日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男
2024年10月30日
2024年9月25日
2024年8月21日