(中から続く)
では、日常生活インフラの不在は、居住地域における不便とどう関わってくるのだろうか?
図9.は居住地域での不便を感じるかどうかを問うたもの。図のタイトルは現在形になっているが、設問の本意は「不便になる可能性を感じるか」というニュアンスに近い。
都市規模が小さくなるほど不便を感じる可能性は高くなる。持家と賃貸では、その立地の分布から、持家の方が不便を感じるようになることも首肯できる。
ところが、年齢層別では一般的な思惑と違った結果が出た。加齢の影響により、年齢層が高くなるほど不便を感じる可能性も大きくなると考えるのが、まずは普通の思考であろう。だが、この調査では、年齢層が高くなるほど不便を感じる可能性は低くなっているのだ。これはなぜだろう。
三たび、買い物手段を聞いた図5.にご登場願おう。
牽強付会のお叱りは承知の上で暴論を進めれば、図5.と図9.のグラフにある相関関係が認められる。
即ち、自動車等を運転して買い物に行くことの多い性・年齢層ほど、不便を感じる可能性が高いと感じている。
性・年齢別に分けた6つのクラスターの中で、不便を感じる可能性が高いと思っている3集団は、1位が60~64歳女性で、53.6%、2位は同じく60~64歳男性で51.2%、3位は65~74歳男性で48.0%と続く。
この上位3集団の「自動車等での買い物に行く」率は、1位の60~64歳女性が66.2%で第3位、2位の60~64歳男性が79.7%で1位、3位の65~74歳男性が72.8%で2位になっている。つまり、順位の入れ替わりはあるもののこの3集団が、自動車等の利用度が高く、かつ不便を感じる可能性も高いトップ3を形成しているのだ。
では具体的にどんなことで不便になる可能性があると感じているのだろうか?
図10.は日常生活に必要な都市機能がないという不便さ、図11.は公共交通機関の未整備による不便さである。
両者を比べて意外に思ったことがある。公共交通の未整備は、都市機能ほど不便だとは思われていないのだ。とくに75歳以上の女性は、11.1%と最も低い。日頃の歩行習慣がある種の自信になっているのかもしれない。
不便を感じる可能性が低いとは裏返せば、現状の満足度がそれなりに高いということでもある。高齢になるほど満足度が高いことには、「エイジングパラドックス」(※1)の影響も少しはあるかもしれない。
加えて日頃のウォーキングの効果もあるだろう。一日に歩く歩数が多ければ多いほど、その日一日をよりポジティブに、ハッピーな気分で過ごすことができるそうだ。ウォーキングを行うと脳内にエンドルフィン(※2)が分泌されるかららしい。
逆に、上記のトップ3のクラスター。いずれクルマを手放さざるを得ない時期が必ず訪れる。「ポスト・マイカー」の時期を迎えて、買い物難民化するのはむしろこの人たちではないだろうか? その対策は今からでも遅くはない。
※1. エイジングパラドックス:加齢による喪失があるにも関わらず、喪失に対する対処(目標の選択、最適化、補償など)がうまく機能することで高齢者の幸福感が低下しない現象のこと。
※2. エンドルフィン:脳内ホルモンの1種。ゆったりした気持ちよさを誘う。神経を興奮させて気持ちよくなるのではなく、幸せ感を高めてくれる
日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男
2024年9月25日
2024年8月21日
2024年6月7日