高齢社会を語るとき、多くの場面では65歳以上を指す。当室も高齢者の定義としてWHOが提唱している「65歳以上:高齢者」を使用している。この「65歳」は、暦による満年齢。
一方、企業の商品提案においては消費者に響きやすいこともあって、さまざまな年齢が登場している。たとえば「肌年齢」、「血管年齢」、「髪年齢」、「腸年齢」、「骨年齢」、「脳年齢」…。これらは測った各組織の年齢、あるいは機能の年齢といえる。各企業が独自に設定し、多くはマーケティング活動において活用している。
近年は抗老化の取り組みにおいて、「生物学的年齢」への注目が高まっている。「生物学的年齢」は、血圧や心拍数、血液中のたんぱく質の量などさまざまなバイオマーカーを測定・解析してわかる「老化具合」。
このようにさまざまな「年齢」が存在するが、今回「よりよく老いる」視点から、「年齢」のとらえ方や関係性について考える。

同じ70歳でもいろいろな「年齢」を持っている
私たちの加齢状況を捉える「年齢」は、医学・社会学・心理学などで語られる加齢の論点から実務に使いやすく整理すると、以下のように分けることができると考える。
1)暦年齢(制度の年齢)
2)生物学的年齢(体内指標でみる“老化の進み具合”)
3)身体機能年齢(生活で使える“身体の稼働力”)
4)認知機能年齢(頭の使い勝手、情報処理の負荷)
5)社会年齢(役割とつながり)
6)主観年齢(自分は何歳だと思っているか)
1)暦年齢(制度の年齢)
生まれてから、暦の上での年齢。行政や保険、割引、免許更新など、制度が扱う年齢。
2)生物学的年齢(体内指標でみる老化の進み具合)
血圧、炎症、代謝、睡眠の質など、体内の状態がどの程度老化側に寄っているかを示す概念である。近年は多数のバイオマーカーを束ねて推定する手法も増え、「老化を遅らせる」領域の評価軸として注目されている。
3)身体機能年齢(生活で使える身体の稼働力)
歩く、立つ、持つ、姿勢を保つといった日常の動作能力につながる。身体機能年齢が進むと移動が限られ、買い物や出会いの機会が減る。
4)認知(機能)年齢(頭の使い勝手)
加齢が進むと、理解が難しい、理解はできるが疲れる。比較検討が面倒になる。こうした「負荷の感じ方」が強くなる。認知機能が難しくなるとさまざまな行動において、離脱や未完了になりやすい。
5)社会年齢(役割とつながり)
仕事、家庭、地域、趣味仲間など、出番や役割、交流の密度が社会年齢につながる。社会年齢が保たれている人は、情報が入り、誘われ、予定が生まれ、行動が増える。
6)主観年齢(自分は何歳だと思っているか)
「何歳くらいのつもりでいるか」という感覚であり、「まだできる」あるいは「もう歳だから」という自己認識につながる。主観年齢は行動の上限を決める。行動が減れば体内状態や身体機能も落ちる。逆に小さな成功が積み重なると、主観年齢が若くなり、挑戦が増える。

多様な年齢は、関係しあっている
これらの年齢は実は互いに影響しあっている。
たとえば、「膝が痛い」と、「外出がツライ」。そのため「誘われても断る」。すると運動量が減り、友達付き合いが減り、「歳をとったなぁ」と主観年齢が上がったり「つまらないなぁ」と自己肯定感が下がったり、身体機能にも影響が生じる。
逆に体調を整え筋力・体力を維持し、気持ちを前向きに持って行けると、旅や人と会うことにも積極的に動くことができ、「私って年の割に元気じゃない?」と、主観年齢は下がり自己肯定感は上がり、ますます行動的な身体でいられる。
こんな具合に、いくつもの年齢は関係しあって、加齢による変化を大きくも小さくもする。
誰もがよりよく歳をとっていきたいが、加齢による変化で心身がより下降気味になる流れ、「加齢加速ループ」と、変化を緩和しながら歳を重ねる、「加齢緩和ループ」がある。
図で示すと以下のようになる。(いずれも高齢期におけるループ)
※紛らわしい矢印の解説
社会年齢↑=出番やつながりが縮小する方向
社会年齢↓=役割やつながりが保たれている方向
◎加齢加速ループについて



いずれの例も、ここで起きている問題は「膝」だけでも「気分」だけでもない。注目するべきは、複数年齢の連鎖である。
身体機能の低下から、社会的役割の喪失から、認知機能の低下から、…なんらかの喪失から「加齢加速のループ」は始まる。①~③はあくまでパターンとして示したもの。実際は始まり方も、各年齢の影響の仕方も、多種多様に存在する。いずれにしても一つとして「一つの課題」ではなく、複数の年齢に影響を及ぼしていく、ということである。
一方で、加齢緩和ループにおいても加齢加速ループと同様に、始まり方はいくつかあり、複数の年齢が影響を及ぼし合っている。
◎加齢緩和ループについて



始まりは役割を持つこと(「社会年齢」若く)や、「自分はまだ色々なことをできる」と考えること(「主観年齢」を若く)。加えて、まず「行動」することが考えられる。ただし「行動」することは年齢に関わらず難しい。ましてや高齢期においてはさらに難しい。
ちなみに脳科学の話では、「やる気がないからできない」は、あとづけ説明だという。「やる気は行動するから出る」のが正しいそうだ。
とはいえ、高齢者に行動を促すには「きっかけ」「動機づけ」「応援」は一層重要だ。
ループはどこからでも取り組めそうだけど…
こうして見ていくと、「加齢加速ループ」においても「加齢緩和ループ」においても、それぞれの年齢の関係性から、よりよく歳をとるための提案や取り組み方が見つけられそうだ。

「加齢加速」も「加齢緩和」も、ループになっているのだから、どこからでも取り組めそうな気がする。しかし変化の起こしやすさから考えると、図に示している視点からが始めやすい。
「加齢加速ループ」を断ち切るのは、「身体機能年齢が上がる」・「社会年齢が上がる」・「認知機能年齢が上がる」を防ぐ・緩和すること。「加齢緩和ループ」を始めるには、「社会年齢を下げる/維持する」・「行動を増やす」ことからが、始めやすい。
【加齢加速に対する起点:例】
〇身体機能の低下(身体機能年齢の上昇)からの行動減少を防ぐ
・痛みを緩和する~鞄や靴の軽量化。食器や調理器具の軽量化。できることを少しでも減らさない提案で、加齢加速を食い止める。
・移動のサポート~1回で複数箇所に買い物に行くことができる。あるいはサポートや同伴・送迎の提供で自由な移動を可能にする。できることをなるべく維持し、加齢加速を食い止める。
・自宅や自宅近辺への出張サービス~買い物だけでなく、理美容や本格コーヒー・紅茶などのサービス提供。特に精神面にも高い効果が見込める商材は、老化によるマイナスを減衰するだけでなく、新たにプラスの効果(加齢緩和ループへの導線)を見込める。
:これらの予約や問い合わせなどを簡便化。迷いを小さくして利用しやすくする。一度にたくさんの理解を求めない、判断の負担を小さくするなど、コミュニケーションの設計も重要。
【加齢緩和に対する起点:例】
〇役割維持から社会年齢を若く保つ
・地域居住者が地元で活躍できる機会を得られる、“人材プール”のような登録システムを地域ごとに設置。企業は退職社員の希望有無の確認の上、社員居住地の“人材プール”に、就業時代の経験や能力を登録。本人よる確認や修正依頼を踏まえ、希望なども記載。退職後の活躍機会を増やす。第三者(勤務先)の評価や推薦が入る仕組を設けることで、退職後も出番を得る可能性が高まる。

・子供の結婚や退職に対する記念品やお祝いの贈りものに、新しい体験をプレゼント。体験後、感想を贈呈者に伝える仕組みを設けて、体験を振り返る・言語化するなど行動を促す。プレゼントされた高齢者は、新しい価値観や感覚を発見できるかもしれない。
たとえば子供が結婚して子育てが終了した夫婦に、二人暮らしの準備が“仕事”のように取り組めるサービスをプレゼント。住まいを二人暮らしに整えるため「住まいコンサル」サービスを利用して、二人で考えたり役割を担ったりしながら新しい暮らしを整える。萎んでいる暇なんかない、やることがすぐに始まるサービスを結婚する子供世代から親世代にプレゼントする。
・知恵やネットワークを求めている人との出会いを提供。自分にできることを確認でき、役立つことを実感。次の行動がうまれやすくなる。専門性の高いネットワークづくりもあるだろうし、もっと緩やかなネットワークづくりもあるだろう。
たとえば雑談できる環境に小さな依頼掲示板を設けて、顔が見える紹介サービス(いわば“知恵の交換所”)を行うなど。事業として行うことも考えられるし、金融機関や飲食・物販・サービス事業者が地域住人のくらしに溶け込む策としても考えられる。
これらはアイディア出しを試してみた結果の例。「加齢加速」も「加齢緩和」も、ループになっているのだから、ひとつ取り組めば後ろに続く複数の課題に効果を見込める。
たとえば週一回でも出番ができる(社会年齢が若い)と、「自分にも役に立てる」という自己像が育つ(主観年齢が若くなる)。すると外出が増え(行動が増える)、体内リズムが整い(生物学的年齢が若くなる)、歩行や筋力が保たれ(身体機能年齢も若くなる)。結果として、さらに出番が増える。ここで鍵になるのは本人の努力ではなく、「始まり」とループの設計である。
「加齢加速」でも「加齢緩和」でも、ループを意識したひとつの提案がマイルドな加齢を実現しやすくする。自社の財産から取り組めるものはないか、検討してみてはいかがだろうか。
株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 石山温子
2026年2月25日
2026年2月6日
2026年1月16日