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個人に合わせて、変化に応じて
高齢社会に生きるOTA(Over the Air)とは?

 2024年12月23日、ホンダと日産は経営統合に向けた基本合意書を締結したと発表した。背景の一つには、既に共同研究として発表されている「SDV(Software Defined Vehicle)」がある。投資と開発を2社で行う効果が上げられている。
 「SDV」はここ数年注目されてきた技術「OTA(Over the Air)」が可能にしている。OTAはスマートフォンやデジタルテレビ、自動車等デバイスのソフトウェアをデータ通信によって更新する仕組みだ。中でもEV(電気自動車)時代の到来で、OTAは移動を激変させるともいわれている。

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 たとえば「OTA 」によって不具合が見つかったらディーラーに持ち込むことなく、データ通信などによってプログラムの修正やアップデートも可能。ユーザーのドライビングデータから望ましい機能を開発し、リリース。ドライバー側の利便性が増すとともに、メーカー側の負担を大きく減らし新たな売り上げも得られる。
 もちろん、そのリスクについても様々取り上げられている。常時ネットワークに接続することで、自動車がハッキングされるなどサイバー攻撃を招く可能性もあり、OTA発展にはその対策が急務とされている。

 さてこの話はシニアマーケティングと何か関係があるのか?シニア向け電気自動車や小型EVの話か?と思われた方もおられるかもしれない。

 今回、注目したいのは「OTA」によって変化し続ける、あるいは成長し続ける、もしくはカスタマイズし続ける商材が、加齢にともなう変化にも応えられるのではないか?そして高齢になるほど大きくなる個人差に、対応できるのではないか?という2つの可能性である。

「OTA」活用が高齢者/高齢社会にもたらす、2つの可能性

~可能性1.個別最適化とマス生産による価格低減の両立

 過去記事「長寿命社会で、望まれる チューニング力の開発」で、デジタル化が進んでいる補聴器を例に、カスタマイズが難しい商材を大量生産しながら個別最適化できる重要性について論じた。
 高齢期にニーズが高まる補聴器は、個々人の聞こえの違いに如何に対応できるかが、購入者の利用に大きく影響する。店頭へ何度も足を運んでチューニングすることが必要だった従来品に比べ、デジタル化した補聴器は利用者からのフィードバックにあわせてリモートでチューニング(カスタマイズ)して使用感を向上。なおかつ購入時より、利用者の聴力や生活環境が変化しても、あわせていくことを可能にする。

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 補聴器のこれまでの課題に、利用者の “聴こえ”にあわせ切る難しさがあった。何度も店頭に出向いて調整する。しかし基本をあわせても、生活場面によってはまた異なる。(日常会話、会場で講演を聞く、会議に参加する etc.)こうした理由で、高いお金を払って購入しても使い勝手悪く使わなくなってしまう。結果、聞こえにくい状態でコミュニケーションに支障が生じ、人との交流を避けるなどして精神面にも認知面にも悪影響を及ぼすなど課題を大きくしてしまっていた。こうした補聴器の課題に対して、通信を使ってチューニングできることは画期的な進化だ。

 個別最適化が大切だが価格も重要。大量生産である程度までコストを下げつつ、「OTA」によってカスタマイズする。使用感をあげて、補聴器の継続利用を促進に可能にする。

 この基本構造を応用すれば、個人差が大きくなる高齢者層に、さまざまなプロダクトを手に届きやすい価格で、個別最適化できるのではないだろうか。

~可能性2.加齢に伴う変化にあわせて製品機能を変える

 高齢になってからも当然、私たちは変化しつづける。65歳と85歳では、心身、家族、役割、社会生活、環境に大きく変化が生じ、できることも望むことも変わる。こうした変化に応じて使う商品の設定や機能を変えていくことが考えられる。

 自動車の場合、先進運転支援システム(ADAS)の義務化が進んできている。車線の逸脱を防ぐアシストや車間距離を自動で保つアシスト、運転疲労検知からのアラートといった機能は既に実現している。今後はOTA活用でたとえば加齢に伴う身体能力の衰え、見え方や気づき方などに対して新たな支援を個別契約できるようになるかもしれない。あるいは退職や休日の変化によって行動範囲や運転時間が変われば、支援メニューの変更も必要になるかもしれない。

 健康管理デバイスなら、購入後の健康状態の変化によって最も注意すべきことは変化する。たとえば検査結果や医師からのアドバイスをメーカーに送信して、カスタマイズした機能をデバイスに設定。「何を管理するか、どう支援するか」を可変とする。

 住まいであれば、高齢者にとって大敵な急激な温度変化を避ける室温調整能力のアップグレードや、安全確認機能をバージョンアップすることも考えられる。年々巧妙化する詐欺や新たな犯行手段による強盗などに対して、防犯機能の向上もあるかもしれない。

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習熟度にあわせた機能提供可変で、
高齢者のやる気を応援

 時間の経過は必ずしもできることが減っていくだけでなく、経験値や習熟度があがり支援を提案や機能を増やすことも減らすことも考えられる。高齢者だから「なんでもシンプル」一辺倒では、飽きてしまう。もうわかっていること、できることを何度もなぞられるのは、馬鹿にされているようで不愉快な気持ちにもなりうる。

 たとえば住まいに瞑想支援機能を備え、瞑想初心者へのプログラムから始め、慣れてきたらプログラムが変化する。健康管理デバイスなら提示する機能を最初はシンプルに、慣れてきたら増やして、健康管理の注意や理解の対象を広げていくことも考えられる。「もう少し頑張れるようになりましたね!」と、できることが変化していけば、利用者は飽きないし、自分に対する提案としてより積極的に利用するのではないだろうか?

 利用者の反応にあわせて(フィードバックを得る仕組みで)、機能を足したり削ったりできるのも、「OTA」活用が高齢社会に活きるポイントだろう。

「物理的な寿命」をなくすのは難しそうだが、
素材や設計で延長は可能

 「OTA」活用で長期間使えることは魅力だが、どれだけソフトウェアで進化を続けても、基本的な素材や構造の劣化は避けられない。ただし、技術的な工夫によって寿命を延ばしたり、影響を最小化したりする方向性はありえる。
 既に製品化されている自己治癒コンクリートのように、バクテリアや特殊な化学物質を利用して損傷を修復する材料の開発や、摩耗や腐食に対する耐久性をあげる研究が進んでいる。
 設計をよりモジュール化して、劣化しやすい部品は簡単に交換できるようにすることもできる。

 「長く使える」「大切に使える」ことはそれ自体、高齢者にとって大きな価値。

 物理的な課題である「寿命」は避けられなくとも、素材や設計、ソフトウェアの進化は新たな価値を生み出すことができる。高齢社会に高まるであろう価値観においても、「OTA」を活用した提案が望まれる。

株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 石山温子