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よりよく歳をとる。長生きをリスクにしない
「行動」は、どうやって始まるか?

 「よりよく歳をとる」ことは、多くの人の願い。一方で、「歳をとる」こと自体は、どちらかというと嫌がる人が多いのではないだろうか。もちろん、加齢を前向きに受け止め楽しんでいる人もいる。自身の成長、人や物事、知識との出会いや発見、若さ故求められがちな行動・容姿・能力からの解放など、加齢によって得られるものも数多く存在する。
 しかし前向きにとらえることができる事象が存在しても、加齢による「喪失」、そして生じる「不自由」や「不便」、「不安」。これらと向き合うこととは別の話だ。

 加齢に伴いどんな「不自由」や「不便」、「不安」が生じるのか。

 「よりよく歳をとる」ために、将来生じることを知り、何かを感じることは役に立つ。そこで初めて、対応策や解決策のニーズが顕在化する。行動に結び付くスタートラインにたてる。加齢に対する商材はさまざま上市されているが、選ぶ行動が生まれるためには「知り、感じる」必要性を前の記事で論じた。 「知って、感じる」ことで、行動する土台はつくられる。考えることで行動する。

よりよく歳をとる。長生きをリスクにしない 生き方を叶える環境とは?

「行動」を促したいが、
アラートと促進策だけで、人は動くだろうか?

 「歳をとるとこんなことが起きる」とか、「こんなことをしていればよい」とか、情報や経験を聞いたり、疑似体験をしたりすることで気持ちが高まった!としても、今困っていない人が動くためには、ある一定の動力や摩擦係数を下げる「何か」が必要だ。動く気持ちが芽生えたら、実際に動いてもらう(問い合わせたり、試したり、購入したり…)ために、多くのマーケティング活動では「行動」を促す施策がとられている。
 たとえば、割引、プレミアムやプレゼント、トライアル利用、そしてこれらの期間限定キャンペーンなど。数多の販売促進策が存在する。その気になってきた見込み客に「エイや!」と行動してもらうために、見込み客を顧客にするために、広告・販売促進業界は数々のツールや仕組みを開発している。

 ただし今回テーマにあげている「加齢から生じる経験を知って感じ、考えて、行動」の促進は、まずもって対象が、あまり前向きにとらえられていない。

 「シミやしわが増える」「骨折しやすくなる」「見た目が貧弱になる」「認知機能が衰える」etc.。
 訴求相手に対してマイナスを直面させつつの行動促進になる。
 たとえば、事実であっても以下のような呼びかけは、対象者にマイナス事象をつきつける。

 悪い言い方をすると、「〇〇しよう。さもなくば△△になるよ」。という呼びかけ。
 そこに販促策をくっつける。例えば「今なら契約すると、□□をプレゼント!」「今なら半額で〇〇〇を愛飲できますよ!0月00日までの特別キャンペーンです」

 果たしてこれで、多くの人は動くだろうか?

 もちろん非常に健康意識が高く、行動力もある人は動くかもしれない。「このままではマズい!なんとかしなくちゃ!」と動くかもしれない。
 これは、人の「快」に接近し「不快」を回避する特性を利用したもので、「不快」回避行動を促すアプローチになっている。心理学では、「動機づけになる」と言われている。

 しかし多くの人はどうだろう?「不快回避」行動をとることができているだろうか?
 「〇〇しなさい。さもなくば△△になるよ」。子供の頃、誰もが大人に言われていた「勉強」と「困ったこと」あたりを思い出すと、勉強にいそしんだか?いやむしろ、多くの人はなぜか逆の気持ちになった記憶があるのではないだろうか。
 脅されて、気持ちがよくなる人はいない。多くの人は、ただ耳を塞ぎたくなる。

 いやいや今、伝えようとしている相手は大人なんだから、違うでしょ。と思うかもしれない。非常に健康意識が高い人は違う、というかもしれない。
 しかしたとえ「それは大変!骨粗しょう症になりたくないから飲まなくちゃ!」と行動しても、ずっと「骨粗しょう症」不安を頭に置いておくことはできるだろうか?提案企業がずっと骨粗しょう症のアラートを発し続け、そんな不安を持ち続けるなんて…、いずれイヤになるのではないだろうか?

 この背景には、人の「go反応」と「no go反応」が存在しているらしい。

脳が反応する
「go反応」と「no go反応」

 人間の脳は報酬を予測すると、「接近」を促す(「快」への接近)のみならず、行動を起こしやすくなるよう設計されているという。反対に「喪失への不安」は、何もしない状態を引き起こすことが多い。
 本来は、損失回避=不快回避は、「no go反応」で活動を抑制。すくみ反応だ。
 危険にあえば、戦うか逃げるかじっとする(死んだふり)か。ヒトが捕食される側であった時代のプログラムで、恐怖や不安は現代人をも行動に駆り立てるより退かせたり、凍り付かせたり、放棄させたりしがちという。

 つまり「行動する」go反応は、「ご褒美=メリット享受」のため。「不快回避」のために「行動する」go反応は、おそらく自然に反しているのではないだろうか?「〇〇の損失回避に△△をしよう!」は、「報酬と行動」の関係に反していることも、△△行動を引き起こすのが難しい理由のひとつかもしれない。

 であるならば、報酬の提示と一緒に損失回避の財・サービスを提案するのはどうだろう?

 いいことあるよ!という明示とともに、商材を提案するのである。もちろん動きたくなる策を伴いながら。

備える、「損失回避」のための行動を促すには
「ご褒美=メリット享受」を今!が、効果

 このようにメリット提示は脅しよりは効果はあるだろう。上記のダミー広告画像では、期間限定の価格メリットを追加して行動を促そうとしている。しかし、それでもなかなか行動に移せない人も多い。ここには「時間割引率」が関係しているともいう。
 ここ数年、特に行動経済学において取り上げられることが多いのでご存じの方も多いかもしれない。「時間割引率」は将来における価値を現在の価値に直すとき、どれだけ割り引くか、という率。

 たとえば今、1万円をもらうか、1年後1万1,000円受け取るか。1年後の1万1,000円を受け取る人と比べたとき、今の1万円を受け取る人は1,000円利得を放棄する、「時間割引率が高い人」といえる。

 「時間割引率」が小さいと、将来の報酬を考えられる。「時間割引率」が大きいと、「将来に向けて〇〇する」という選択が難しくなると、言われている。
 実際の時間割引率は所得や資産の状況、社会情勢、国の政策、個人の健康などが変化すれば、影響を受ける。よって個々人の特性とも一概にいうことはできない。また一般的には現在の1日と1年後の1日では心理的な長さが違うといわれている。たとえば今から1か月先はそれなりに時間があるように思うが、10年後を考えるときは10年先も10年と1か月先も似たように感じる。つまり上記の仮説グラフのように、結局、誰にとっても「今すぐ」は「あとで」より価値が高い。
 そこで未来のメリット=ご褒美だけでなく、今すぐのご褒美が有効になる。「行動する」go反応を生じさせるために備えたい。

 南アフリカの保険会社「ディスカバリー」が展開する保険「Vitality」は、将来の病気に対する不安をあおる保険という商品特性に、健康行動に対するご褒美プログラムを追加した。(日本では住友生命が特約サービスとして提供している。)
 ヘルスケアアプリとの連動で、健康診断を受けたり運動したり野菜摂取状況を回答により把握。健康行動が行えていると、保険料が割引になる。健康行動でVitalityコインを獲得し、宿泊やジムをお得に利用できる。
 今のメリットを得られることで、損失回避の財を購入する。「今」「動く」、「go反応」へ導いている。

 であるならばソナエるための財・サービス提案では、脅しよりもご褒美=メリットを訴求。加えて今すぐご褒美の施策が必要なのではないだろうか?

行動を促すのは、アラートよりご褒美=メリット
さらに未来のご褒美より今すぐご褒美

 試しに例をさらに修正してみた。

 たとえば骨粗しょう症の予防に効果が見込める財・サービスを訴求する際には、未来のメリットを訴求。さらに今すぐお得、やってみたら競争心があおられ楽しい、などの施策を加える。

 よりよく歳をとるための提案に行動を起こしてもらうには、未来に備えているのだが、備える意識よりむしろ「今すぐ訴求」が効果を発揮するかもしれない。

株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 石山温子