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「孫のため」だけじゃない―イケアに見る「孫ビジネス」の実際

家具業界ではイケアの一人勝ちが続いている。強さの秘密を勝手に要約すると、「北欧デザインと素材にこだわった家具」(うまい=高品質)「辺鄙な場所に、車で行って、スタッフの見当たらない広い売り場を歩きまわって商品を探し、自分でピックアップして、車に積んで持って帰る」(やすい=低価格)という、グローバルなフォーマットに、きめのこまかいローカル対応(はやい=利便性)を付け加えたことが、「うまい、やすい、はやい」のゴールデン・トライアングルを形成した、ということになる。

日本での対応(はやい=利便性)でいえば、車を持たない若い世代のための「シャトルバス」、バスやファミリーカーでの来店客には「宅配サービス」「ピックアップサービス」、DO IT YOURSELFの習慣のないファミリー向けの「家具組み立てサービス」。ほとんどがグローバル・フォーマットのアンチテーゼで固められているのだが、そこはイケア。「シャトルバス」を除きすべて有償とし、ローコスト・オペレーションの辻褄は合わせている。

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←お客さまに代わって、ご希望の商品をピックアップいたします。有料:2,990円(イケア)。

こんな(売る方に都合の良い)フォーマットを受け入れるのは、ローコストに惹かれたシングルや新婚家庭、小さいお子さんのいる発展途上家庭だけかと思いきや、行ってみてわかるのだが、シニア客がけっこう目に付く。これは一体どうしたことだろう。

イケアの店舗づくりは、上述のメーン・ターゲットに絞り込んだ、ローコスト・オペレーションのためのレイアウトを徹底している。お世辞にもシニア・フレンドリーとは言い難い。広くて歩きやすいとは言え、迷路のような長い通路には休憩用の椅子もない。レストランのメニューもとくにシニアに配慮しているようには見えない。映画館のような高齢者割引があるわけでもない。

不思議に思ったので、よくよく観察してみると、謎が解けた。シニアはほとんど例外なく孫のお守に連れてこられたのである。もちろん、孫と過ごす時間をつくるために、自ら志願してハンドルを握ったシニアもおられることだろう。実購入者である娘夫婦(あるいは息子夫婦)に付き添って、孫のために手に入れたワンボックスカーを操り、レストランでは給仕の役も買って出て、行程も終わりに近づくころには売り場探検に飽きた孫を抱きかかえ、それだけでなく、レジでは勘定奉行もしっかり務めているかも知れない。

シニアマーケットに詳しい東北大学特任教授村田裕之:「ときどき顔を合わせるくらいになると、愛おしいとかそういう気持ちが強まると。物理的には近くにいるので、今夜は一緒に晩ご飯にしようかとか、週末は孫の誕生日だから外でちょっと外食でもしようとか。商品を売りたい企業はそこを狙っているわけです。」
鈴木:「昔からそうですが、やはり孫の力は絶大ですね」
江藤アナウンサー:「今のシニア世代は、孫のためならと、思い切った出費をする傾向がこれまで以上にあると専門家は言います。“孫ビジネス”今後も注目です。」

以上は、2012年5月10日放映の NHK「広がる!“孫ビジネス”」という番組でのやりとりだが、今のシニア世代は「孫のため」だけでなく「孫と一緒にいるため」には、「思い切った出費」に加えて「思い切った行動」もするようである。必要なのは「きっかけ」だけだ。それを作れば、彼らは来る。
(津川義明)

【2月7日追記】
後追いで、ネット検索していたら、次の記事が引っかかった。4月にオープンしたばかりの国内6店舗目となるイケア福岡新宮店を取材した経済ジャーナリスト・高井尚之さんのレポートだ(初出はPRESIDENT 2012年6月18日号)。そこで彼は、イケア・ジャパン社長パルムクイストさんにこう問いかけている。

順調にスタートした福岡新宮店。だがイケア・ジャパンとして、さらに家具業界全体で考えると課題も多い。たとえば少子高齢化への取り組みだ。前出の長島編集長は「昔から家具業界では高齢者需要を取りきれない」と語る。住宅設備業界では子供が独立した後の夫婦が、一戸建てを処分して都心のマンションに移り住む現象にも目を向ける。その層に向けて各住設メーカーはコンパクトな設備を提案するが、イケアの大型家具や、自ら持ち帰って組み立てるスタイルが、高齢者に訴求できるかどうか。
– 世界最大の家具屋「イケア」集客の仕掛け【5】(PRESIDENT Online 2012.07.27

記事では、この問いかけに答える形で、パルムクイストさんはこう説明している。「どれもビジネスチャンスですが、まずは次の出店となる立川店開業に向けて進みます。現在、私たちイケア・ジャパンは、3つのことに取り組んでいます。(1)日常生活におけるリーダーになりたい(2)働く人にとって、よりよい会社(3)社会に対して、責任を持つ会社。この原則を踏まえながら『世界で一番楽しいのは家』をモットーに生活提案をしていきます。イケアは急がないのです」。

まったく答になっていない説明だが(言葉が通じなかった?)、直接に答える必要は感じなかったからかも知れない。レポーターが店内を本当に覗いたかどうかも疑わしい。足を運んだとしたら、「コンパクトな設備」が、大書された「宅配サービス」「ピックアップサービス」「家具組み立てサービス」の表示が、そして肝心のシニア客が、いやでも目につくに決まってる。拙稿ではあえて触れなかったが、高齢のご夫婦だけで品定めしている現場も、ちらほらと目撃している。

ユニクロのように、イケアがシニアを直接の購入者として取り込む日も近いだろう。たとえば、写真の置台のように、商品ラインアップにはすでにその兆しが表れている。
(津川義明)