フードテックをキーワードに、新しい食の開発が進んでいる。3Dフードプリンターによる食の成型、スーパーでも購入できる大豆ミートなどの植物肉、シンガポールで提供が始まった培養肉、昆虫食の研究など。世界の食糧需給のひっ迫に備えて、新しい食文化が生まれようとしている。
こうした新しい食をシニアの栄養摂取に活用できないか、考える方もおられるだろう。多くの高齢者は健康への意識は高く、必要にあわせて食生活を変える力も持っている。
「飽食の時代に、老人性栄養失調が心配」でも述べているが、高齢者のたんぱく質摂取は国の目標設定でも高められており、多くの報道がなされ、社会的にもその重要性が広く伝わってきた。高齢者も多くが意識的に肉を摂取し、食生活を変えてきている。
このデータを見ても、健康のために必要なことがわかれば、高齢者は行動を変えることができる人が多いといえるだろう。
一方で、一般的に高齢者は保守的で新しい物は受け付けないのでは?と、考える方もおられるだろう。必要な食生活の提案には敏感でも、その手段が植物肉や日本では未販売ではあるが培養肉である場合、高齢者に受け入れられるのか?と、疑問に思う方も多いだろう。
実は、公益財団法人 日本食肉消費総合センターによる「食肉に関する意識調査」令和3年度報告書によると以下のようなデータがわかる。
植物肉について「知っている」
最多は高齢者層
まず知識として、植物肉を「詳しく知っている」人が多いのは20代・30代だが、「ある程度知っている」、あるいは「何となく知っている」を足していくと、高齢者層の方が50代以下世代より「植物肉を知っている」人が多い。
*アンケート調査における説明は、下記のとおり。(公益財団法人 日本食肉消費総合センターによる「食肉に関する意識調査」令和3年度報告書)
「植物肉は、大豆などから抽出した植物性たんぱくを主原料に使い、食肉の風味と食感を再現した食品です。ハンバーグ、バーガー・パテ、大豆ミート、牛丼、焼き肉用カルビなどが国内外で販売され、外食店や小売店等で見かけることが増えています。最近では、うまみとなるアミノ酸を増やした発芽大豆を原料に、添加物なしに風味を向上させた植物肉も開発・販売されています。」
さらに食べた経験は20代を除くと60代が一番多く、70代以上も特別少ないという様相ではない。「高齢者は新しいものを受け付けない」というのは、高齢者層以外が抱いているイメージに過ぎない。
ではなぜ高齢者層は、植物肉を受容しているのだろう。高齢者は植物肉について何を知り、どう捉えているのだろう。
植物肉に肯定的な高齢者と否定的な若者
豆類を沢山食べているか否かも、異なる
60代以上とそれ以下では、植物肉に対する知識具合に違いが見受けられる。
植物肉が登場した背景には健康志向だけでなく、世界的なたんぱく質不足がある。しかし食肉増加にはより多くの資源が必要であり、二酸化炭素排出が増える。加えて近年注目されている家畜福祉への視点などからも、植物肉への期待が高まっている。
こうした食肉のマイナス点を削減し植物性たんぱく質のメリットを伴った植物肉の便益について、高齢層ほど認識している。そして購入意欲にも関係している。
加えて60歳以上と中年以下を比較すると、植物肉の主原材料である豆類の摂取量が大きく異なる。そもそも豆類を好んで食べてきている高齢者層とそうでない世代との間には、植物肉を肯定的に受け止めるか否か、経験・知識の土壌に違いがあるのではないだろうか。
食における新技術に対して
前向き態度の高齢層
高齢者は未知に対して否定的ではないか?というそもそもの想像があった。
確かに、「新しい食費、違う食品を試している」高齢者層は少ない。しかし一方でその理由を示唆するような「目新しい食品は信用できない」「原材料のわからない食品は食べない」高齢者は、他世代に比べて明らかに多い。逆に捉えれば「目新しいか」かどうかは関係なく、「原材料が何かわかれば食べる」方が多いのではないか。との推察もできる。先に紹介した、植物肉に対して肯定的な態度をとっていることとも繋がる。
しかも新しい食品技術を用いることに対しても高齢者は、「バランスの取れた食事をする」という視点からは肯定的だ。否定的な人は少ない。
まとめると、高齢者は一概に「新しい食に消極的」ではない。むしろ下記のもとであれば、積極的とさえ考えられる。
1.原料がわかれば、新しい食品・食事もとりいれる
2.慣れ親しんだ原料ならなおよし
3.新しい技術もバランスのとれた食事のためならよい
株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 石山温子
2023年9月5日
2023年6月28日
2022年8月26日