(上から続く)
50歳を境に鑑賞者率の高低がはっきり分かれたのが、落語・漫才・講談・浪曲といった芸能分野。(図8.)このジャンルは中高年の独壇場と言ってもよい。それほど50歳未満とは際立った差がついている。
同様の特徴を示すのが、歌舞伎・能楽・文楽といった古典芸能。やはり50歳を境にそれ未満は低く、それ以上では高くなっている。年齢階級別にみれば、70歳以上の鑑賞率が5.8%最も高い。このジャンルでは、おじいさん、おばあさんの存在感が非常に強いことが数字にも表れた。
以上、全体傾向と個別ジャンルに分けて、年齢階級別の文化・芸術鑑賞率を見てきたが、面白いことに気づかれたと思う。それは、全体を総括すれば「60歳以上のシニア世代は文化・芸術の鑑賞者は少ない」のだが、個別ジャンルを取り上げてみると、「必ずしもシニア世代の鑑賞者が少ないわけではない」という二律背反の傾向が現れたことだ。これはいくつかのグループに分類できる。
①60歳を境にそれ以上でガタンと減るもの――――――映画・演劇
②70歳を境にそれ以上でガタンと減るもの――――――歴史的な建造物や遺跡
③全年齢階級を通じてほぼ拮抗しているもの――――音楽
④50歳以上の年齢階級が鑑賞の主体のもの――――――舞踊・芸能・古典芸能
つまり、映画・演劇を除けば、シニア世代の文化・芸術の鑑賞態度は年齢による退潮現象が認められないのだ。鑑賞者母数の大きな映画の鑑賞率が全体の結果を左右していると推測して、大きな間違いはないだろう。
それでは、今度は角度を変えて、「鑑賞しなかった理由」を聞いてみよう。(図10.) 年齢階級によって違いはあるのだろうか?
一目見てわかるのがシニア世代の「時間資源」。「時間がない」ことを理由に鑑賞しない人は、60歳代で一度急減し、70歳以上でさらにもう一度急低下している。もう一つの資源「費用」に関しても、40歳代の10.2%を峠にそれ以上の年齢階級で漸減し、70歳以上の3.9%は、全年齢階級の中で最も低い。「シニアは金時持ち」という俗諺が図らずも実証されたわけだ。
70歳以上になると時間理由より、「関心がない」ことがトップに躍り出る。その次は時間。そして3番目に「近くで公演や展覧会をやっていない」がつけている。この数字(15.4%)は、全年齢階級を通じて一番高いスコアだ。「近く」という言葉に明確な定義はないが、70歳を超えると「近い」という範囲が狭くなってきているのではないかと思われる。
では、鑑賞という比較的受け身の態度から一歩進んで、実際に「活動した」人はどの程度いるのだろうか? 図11.はこの一年間に「鑑賞を除く文化芸術活動に参加した割合を年齢階級別に眺めたものだ。
「鑑賞」とはグラフの形が大幅に様変わりした。30歳代と70歳以上の参加率が突出し、他の年齢階級を凌駕しているのだ。ここからは、アグレッシブなシニアの姿が浮かび上がってくる。そしてもうひとつ。60歳代は参加率が低く、僅差ながら全年齢階級のなかで最も低い数字になっている。意外な結果である。(下に続く)
株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男
2024年3月11日
2023年9月12日
2023年6月5日