シニア市場に特化した
調査・分析・企画・
コピーライティング・デザイン

株式会社日本SPセンターが運営する
シニアマーケティングに関する専門サイトです。

高齢者と火災

冬になると火災が多くなる。先日(12月8日)も大阪府豊中市で高齢者5人が亡くなるという痛ましい火災があった。この火災は高齢者がいかに災害弱者、というより社会弱者であることを象徴している。

高齢者らが暮らすアパートや簡易宿泊所では、多くの犠牲者が出る火災が過去にも起きている。築年数の古い建物で被害が広がったことなど今回の火事との共通点は多い。

(写真は本文とは関係はありません)

今年の5月7日には北九州市のアパートでは男性6人が死亡。住民の多くは日雇い労働者や生活保護を受給する高齢者。簡易宿泊所代わりに入居していた。アパートは築60年以上、消防法に基づく防火設備の立ち入り検査などは実施されていなかった。

8月22日には秋田県横手市のアパートから出火し、5人が死亡し、10人が重軽傷を負った。築約50年の木造2階建てアパートに精神障がい者や高齢の男性らが暮らしていた。

今回の火災も築後47年を経た古い木造2階建てアパートで起きた。報道によると、アパートには管理人を含め16人が入居。契約書類上、ほとんどがひとり暮らしの60~80代とみられるという。中には脚が不自由で歩行器を使っていた人もいたという。

「平成28年度 消防白書」によると、27年中の住宅火災による年齢階層別の人口10万人当たりの死者発生数(放火自殺者等を除く)は、年齢が高くなるに従い増加している。とくに81歳以上の階層では3.1人と、全年齢階層における平均0.7人の約4.4倍(グラフ参照)。

「平成28年度 消防白書」

高齢者が死傷した住宅火災事例に関する「2014年 住宅防火対策推進協議会『消防本部の実施施策と高齢者の実態に関する調査研究』」※1によると、高齢者が死傷した住宅火災 541 事例の居住者構成は次の通りである。

「高齢者 1 人暮らし」が43.3%で最も高い。大都市では、よりその傾向が強い.(平成 25 年 10 月を基点として過去 3 年以内で、高齢者が死傷した火災)。

火災原因と高齢者の関係を見ると、「出火原因に直接関係があった」が約 8 割(不明を除く)で、高齢者が出火原因である割合が高い。これは加齢による注意力の低下や認知症の影響が考えられる。

火災原因を全体でみると、「タバコによる着火・火種の落下(寝タバコ、タバコの 不始末含む)」が 24.6%、「電気プラグ・コード・コンセント(の損傷による)シ ョート」13.2%、「電気ストーブの使用・可燃物への接触」9.4%であり、「電気ストーブ・石油ストーブ、ストーブ等暖房器具の使用・可燃物への接触」は合せると 25.4%である。

  

全体として「高齢者の死傷する火災では、1 人暮らしで歩行困難など何らかの障がいを持っている75 歳以上の高齢者のリスクが高い。さらに、寝室で喫煙やマッチ・ライターを使用する習慣から出火する」傾向がみられるとしている。

一方、高齢者を見守る側は約 7 割が不安を持っている。とくにガスコンロやストーブの取り扱いに対するものが約 3 割と一番多くなっている。

高齢者が犠牲となりやすい理由は

1)身体的な衰え
高齢者は視覚、聴覚が衰え、災害発生や非常ベル、緊急の呼びかけに気づかないケースも多い。機敏に動くことが難しく、後期高齢者になると身体に障がいを持つ人や認知症を患っている人も増える。そうしたことから、どうしても逃げ遅れて犠牲になるリスクが高い。前記の調査研究でも死傷した高齢者の身体状況は、歩行困難や認知症など何らかの障がいがある高齢者が約 6 割(不明を除く)となっている※1。

2)ひとり暮らしが多い
避難する際、周りに手助けしてくれる家族や同居者がいる場合はいいが、ひとり暮らしの場合はそれも難しい。2015年の調査ではひとり暮らしの高齢者は男性13.3%、女性21.1%(2015年度国勢調査)。75歳の後期高齢者となるとさらにその割合は高くなる。世帯で見ると約3分の1は単独世帯になる。

3)社会的弱者になっている
生活保護世帯のうち、高齢者世帯が52.9%を占める(2017年9月速報値)。保護率の年次推移をみてもこの20年で約2倍(1.55→2.89%)に増加している。核家族化が進み、孤立した高齢者は生活保護に頼らざるをえない。子世代は親世代を支える余裕がなくなっている。そうした状況では良好な住環境は望めない。

厚労省「生活保護制度の現状について」平成29年5月

4)大都市での高齢者流入
2020年までは全国で高齢者が増加するが、それ以降は減少する県が出てくる。そうした中で2010年に比べ高齢者が1.4倍以上増加するのは埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、滋賀、沖縄である。これまでも住宅の密集する大都市での高齢者の被災が多いが更にその傾向に拍車がかかる恐れがある。

火事だけではなく、地震や風水害といった災害に対して弱者となりがちな高齢者。災害から高齢者を守るためにロボット、ICTやAIといった技術の活用から高齢者が理解、納得しやすい広報活動まで、行政と違った視点で課題解決を考えてゆくのもマーケッターの大切な仕事だと考えている。

株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 倉内直也