(上から続く)
就業状況と同じく、3つのパターン(全数・夫婦のみ・ひとり暮し)で、ほとんど差異がないのが、外出の頻度(図4.)。
いずれも60%近くがほぼ毎日外出している。
頻繁な外出は、引きこもりを防ぎ、ひいては介護予備軍の仲間入りを防ぐと言われているので、この傾向は歓迎されるべきことだ。
ご近所とのコミュニケーションの濃淡を問うたのが、図5.。
「お互いに訪問し合う人がいる」という、密度の比較的濃い関係を築けているのは、全数平均・ひとり暮し・夫婦のみの3パターンで、20%内外という数字。この数字の妥当性を一概には評価できないが、ひとり暮しがわずかに濃い関係が築けているのは、やや意外な気もする。
注目すべきは、「付き合い」がないというコミュニケーションレスの人の割合だ。
この回答は、ひとり暮しにおいて突出して高く16.6%にも上る。全数平均と比べても6.6%も高い。夫婦のみと比べれば約10%も高いウェイトを占めており、看過すべきではない結果であるとも言える。
別の調査データ(内閣府「高齢者の生活実態に関する調査」平成24年度版)によれば、「付き合いがほとんどない」とする高齢者は、約5.1%となっている。全数平均で東京都の調査の約半分の値だ。
増加傾向という経年変化もあるだろうが、東京都という都市環境に拠るものかもしれない。
「住居の形態が近所づきあいと密接に関連してくる」ことは、想像に難くない。図6.は、全数平均・ひとり暮し・夫婦のみの3パターンで、住宅の種類の構成比の違いを見たもの。
大方のイメージ通りだろうが、夫婦のみ世帯とひとり暮し世帯では、大きく異なった結果がでた。
所有関係では、夫婦のみ世帯で持家が80.3%と圧倒的な高率だが、ひとり暮し世帯では持家と賃貸が拮抗、54.8%とかろうじて半数を上回っているに過ぎない。
特筆すべきは、民間賃貸住宅に住む割合。夫婦のみ世帯がわずか8%なのに対して、ひとり暮し世帯では、28.1%に跳ね上がっている。おそらくその多くは集合住宅だと思われる。戸建街区より交流が希薄だと思われる集合住宅での生活が、「付き合いがない」という結果をもたらす原因の一つになっているとも想像ができる。
最後に、近年注目されている住まい方、「近居」について見て行こう。「近居」についての明確な定義があるわけではないが、概ね1時間以内で到着できる時間距離とみてよいだろう。(図7.)
この定義を採用すると、ひとり暮しでは76.8%が子世帯と近居、夫婦のみ世帯では実に82.4%が「近居」という住まい方を選んでいるということになる。(子の居ない世帯は母数から除外していることに注意する必要があるが…)
夫婦のみ世帯の方が近居率が高いが、全国的に見れば夫婦のみ世帯とひとり暮し世帯はほぼ同率である。また、いずれの世帯も全国より東京都の方が近居率は高くなっている。(全国平均では約66%。平成25年住宅・土地統計調査)
以上、7つの項目にわたって夫婦のみ世帯とひとり暮し世帯の生活実態の差を概観してきた。
外出の頻度や就業状況など現象面ではほとんど差がないと思える項目もあるが、健康状態や介護認定、コミュニケーション頻度の濃淡など、ひとり暮し世帯へはよりきめ細かいケアが必要であることが示唆されたものもあった。
生活に満足し、ひとり暮しを謳歌している「おひとり様」も一面の現実ではあるが、そこには心身含めた健康を損ないかねない陥穽も潜んでいるのもまた事実である。
日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男
2024年11月11日
2024年6月24日
2024年6月3日