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ギャップ・シニアのギャップを埋める

当研究室では、シニアをひとまとめにしないで、その特性から4象限に分けて考えることを提唱している。今回は、大きなグループでありながらまだまだ提案の余地が見込めるギャップ・シニアについて、そのニーズの捉え方や出会い方について検討する。

ギャップ・シニアは身体に何らかの不自由があるため、「できること」と「したいこと」の間にギャップがある。さまざまな痛みや不自由さから外出が減ったり、続けてきた趣味を諦めたり。結果的に人と会うことが減るなどして、生活の質や充実感が低下する。(ギャップ・シニアについての詳細は、『シニアって誰?』、『ギャップ・シニアとは?White Paper【10】シニアに向けて10の切り口(ギャップ・シニア偏)』、を参照)

ギャップを埋めるサービスや製品の開発・提供は、社会的な意義が深く、ニーズも大きい。特に2025年以降、すべての団塊世代が後期高齢者になり、ギャップを抱えるシーンが増えることを考えると、その意義・ニーズは飛躍的に大きくなる。

既に膝や腰の痛みを和らげる健康食品や、尿もれの心配があっても外出をしやすくするためのパッドなど、ギャップに対処する商品は発売されている。しかしこれからますます増えると予想される、ギャップ・シニアが抱えるニーズは何か。加えて規模の経済が働きにくく、従来どおりのビジネススタイルでは利益をだせる体制をつくりにくい、個々異なるニーズにどう応えるか。
こうした課題を踏まえながら、ギャップ・シニアのニーズに対する提案方法を3つ、考えてみる。

1)能力の回復を図り、ギャップを埋める
「高齢になってもできるだけ長く、住み慣れた地域で暮らす」ことを目標に始まった、「介護予防・日常生活支援総合事業」は、まさにこの取組みにあたる。介護保険制度改正後、市町村が実施している。
介護保険の対象にならなくても、厚生労働省が作成した「基本チェックリスト」で要介護・要支援となるリスクが高い人を発見し、予防ケアマネジメントを施す。回復へ導き、要支援・要介護となることを遠ざける。
  地方自治体は民間の力を借りて運動教室や栄養教室、口腔機能を学ぶ教室や認知機能維持プログラムといった、介護予防に役立つ学びの場づくりに取り組んでいる。企業にとっては売り上げを得るだけでなく、個々のニーズと出会うチャンスとも言えそうだ。
たとえば一般のフィットネスクラブではハードすぎると感じている高齢者も、市が主催する健康づくり教室ならば参加しやすい。サービス事業者は市の健康づくり教室を請け負うことで、自社看板では出会えない多くのギャップ・シニアとコミュニケーションをとることができる。シニアの悩みや不満をすくい取り、よりニーズに沿った新しい商品やサービスの開発も考えられる。
こうした地方自治体の予防事業は入札制度をとっているものが多く、専門のサイトで一覧することもできる。
◎入札情報専門サイト 『NJSS 入札情報サービス』

2)ギャップがあっても「できる」ように、サービスを提供する
たとえば、コンビニ各社や全国のコープが取り組んでいる移動店舗が当てはまる。スーパーやコンビニまで出向くことはできなくても、近隣まで歩ける人は自分で買い物に出かけられる。中山間地域だけでなく、都心部でも免許返納により買い物弱者となる高齢者は少なくない。イオンは千葉県内の複数店舗で、移動販売車を運行している。
 銀行等の移動窓口車は、交通が不便な地域や高齢化に伴う人口減少で店舗の統廃合が行われたエリアで、営業活動を行っている。支店へ出向くことが困難な高齢者が多い中山間地域での利用が進んでおり、この仕組みは災害・緊急時用の移動店舗車になることもあって、導入事例が増えている。
実際に、東日本大震災前に愛知県と徳島県に導入されていた郵便局の移動店舗車と待機車は、すべて被災地に派遣。仮説店舗での営業再開まで、被災地利用者へのサービス維持に寄与した。

加齢により外出範囲が狭まることで生活インフラが弱体化し、高齢者の今ある能力まで減衰させてしまう。行きたい場所まで行き着けない、ならば在宅で。という方法もあるが、高齢者が行動できる範囲まで出向く「移動○○」の提供は、高齢者の今ある能力を活かすことになるし、自尊心を大切にする。

3)シニアに代わって行う
「本人に代わって行う」サービスにおいては、既に多様な事業が展開されている。
例えば墓参りサービスは墓から遠方に住んでいる人を主なターゲットにしているが、炎天下の時期や足に不自由さがあり墓参りに不安がある高齢者にとっても有意義なサービスだ。墓をきれいにして簡単な修繕も行い墓参りをしてくれる「代行サービス」を利用したり、自分で行きたい場合は墓参りに送迎や地域の介護ヘルパーに同行を依頼できたり、選べるサービスを揃えている事業所もある。

家事サービスについては、他世代と比べて高齢者の利用額が高い。

総務省 家計調査より (二人以上の世帯)

家事サービスは最低でも1時間から発注、金額は2,500円/時間~くらい。2時間以上で発注する仕組みが多いようだ。自分でできることは自分でやって、どうしてもできないところだけ家事サービスを頼んで、その分価格を下げる頼み方ができれば、依頼する金銭的ハードルも心理的ハードルもさがる。また高い場所での作業や中腰での作業など、高齢者には特に手が廻りにくい用事を具体的に提案すれば、多くの依頼を得られるのではないだろうか。

一方で、高齢者が抱える「ギャップ」は多種多様であり、それによる代行ニーズは無限。型を決めないで利益をだせるのか、という課題がついてまわる。
しかしこの課題に対して、いくつかの企業がチャレンジしている。

◎『御用聞き』
http://www.goyo-kiki.com/
板橋区にある高島平団地を拠点に活動。サービスの一つは5分100円の「100円家事代行」。5分100円の料金で、電球や電池の交換、宛名書き、日常的な掃除などを請け負う。もう一つは5分300円〜の「たすかるサービス」で大掃除の手伝いやしっかり行う風呂掃除、粗大ゴミ移動などを代行する。

近所に子供が住んでいても、蛍光灯を交換するために自転車や車に乗って来てほしいとは、言えない高齢者が少なくない。

一般的に、サービス業では依頼者の希望にあわせるが、『御用聞き』は安価な一方、スタッフが訪問できる日に対応している。地域の行政からの依頼を受けて訪問することもある。最初は5分100円ですむような案件依頼から始まり、スタッフと依頼者との関係性ができるとより時間のかかる大きな依頼がくる。スタッフは近隣の有償ボランティアの大学生や主婦、引退後も働きたい若いシニアなど。同事業の全国拡大に向け、ビジネスモデルを各地に提供する準備を進めている。

◎『MIKAWAYA 21』
http://mikawaya21.com/
地域の新聞販売店へ経営コンサルティングやお手伝いサービス「まごころサポート」の研修を行い、新聞販売店スタッフが30分500円で60歳以上のシニアの 「ちょっと困った」を解決。

新聞販売店が地域のサポートステーションになり、新聞と一緒にまごころを届けて、シニアが安心して暮らせる街を築く。
シンプルな安否確認機器を開発し、買い物の不便さを解決するためにネット通販を利用したことのない高齢者も注文できるシステムをつくり、ドローン宅配の実証実験を進めている。先進技術も利用しながら、高齢者の暮らしを地域でサポートする環境や仕組みをつくり、全国に展開している。

◎『ANYTIMES』
https://www.any-times.com/
難しい家具の組み立てやペットの散歩など、日常生活に関わる課題を抱える依頼者が依頼内容と価格をANYTIMESの地域サイトに記載。スキルを有するサイト登録者が、依頼者に見積りや交渉を行う。交渉がまとまると、依頼者はANYTIMESに支払を行う。登録者は仕事を行い、依頼者はその仕事の結果に対して評価を行う。ANYTIMESは登録者に手数料を除いた額の支払を行う。
 高齢者に使ってもらいたいという考えで始まったサービスだが、現在の利用者はITリテラシーの高い世代が多い。
しかし今後、ネット利用に慣れているシニアが増えていくことを考えると、創業当初に考えていた「高齢者の困りごとを支援する」ことに役立てられるだろう。

3社の取組みに共通しているのは、最終的に「地域の人がサービスを行う」こと。
地域の中で助け合い、ビジネスが成立する仕組みをつくっている。
少し前までは英語学校や大手塾の地域展開、学習雑誌の個宅販売、家庭への飲料の直接販売、金融機関の個宅営業など、さまざまな業界で地域内のネットワークを活かしたビジネスが行われていた。個人の家を訪ねて会話をしながら相談にのり、解決手段として商品やサービスが要望された。
こうした地域とコミュニケーションをとり地域の力を組織化する、かつて多くの企業が蓄積してきたノウハウを活かして、高齢者の暮らしに役立つone to oneのサービスをつくりだせないものだろうか。
今ある営業体制や取引相手や顧客の情報を改めて、見直してみてはいかがだろう。

株式会社 日本SPセンター シニアマーケティング研究室 石山温子