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「ダブルケア」視点で変わる、「ケアの社会化」(下)

(上から続く)

では、ダブルケアに直面する人(以下、ダブルケアラーと呼ぶ)は、何を負担と感じ、行政等に対してどのような要望を抱いているのか? (下)ではその一端を見てゆくことにしたい。

ダブルケアラーが負担に感じる上位5項目を見ると、上位から順に、1.精神的にしんどい(80.5%) 2.体力的にしんどい(73.2%) 3.経済的負担(69.5%) 4.子どもの世話を充分にできない(62.2%) 5.親(義理の親)の世話を充分にできない(51.2%)という結果。(※1)50%を超える選択肢も以上の5項目である。パートナーの理解不足(23.2%)、介護サービスの不足(19.5%)といった項目を大きく上回る。この結果からは、常に介護と育児のどちらを優先させるかという判断に日々直面せざるを得ないダブルケアラーの悩みが見て取れる。

このような負担感は、心理的葛藤に拠る部分も多いと思われる。「もっと介護に時間を割きたいのに育児に集中せざるを得ず、子育てがストレスになる。」 あるいは「介護は身内がすべきというある種の社会規範に縛られ、子育てを優先したいのに、介護に関わらざるを得ず負担感が強まる。」ようなケースが少なくない。

※1 相馬直子氏(横浜国立大学准教授)、山下順子氏(ブリストル大学上級講師)によるダブルケア実態調査(2012~2015年)

 

「介護」と「育児」ではどちらの負担感が大きいのだろうか?

図7.は、ダブルケアの2つのケアに感じるそれぞれの負担感を問うたもの。ダブルケアラーは介護の方により負担を感じていることが明らかになった。「非常に強く負担を感じる」では、介護は子育ての2倍以上に上る。「特にダブルケアの生活の中で、子どもに何らかの【しわ寄せ】がいったときが、ダブルケアラーの方が他の負担感やストレスはピークとなる傾向が、質的調査から浮き彫りになってきた。」(※2) まさしくこれがダブルケアラーの本音に他ならない。

※2 横浜市政策局発行「調査季報」 Vol.178 2016年3月号「ダブルケアとは何か」 相馬直子氏(横浜国立大学准教授)、山下順子氏(ブリストル大学上級講師)執筆原稿より引用

負担感の大きさは公的サービスヶ貧弱であることの裏返しでもある。ダブルケアラーにとって公的な介護サービスは現状で充分と思うか?という設問では、86.6%の人が「充分ではない、あまり充分ではない」と回答している。同様の設問で公的な子育てサービスに対しては、84.2%が「充分ではない、あまり充分ではない」と回答している。(※1)

 

ではどんなサービスの利用意向が高いのか?(図8.)

傾向として浮かび上がってくるのが、人的サービスである。施設系の要望は想像に難くないが、ケアマネージャーやホームヘルパー、リハビリテーションの専門家等、介護分野における訪問型職能の存在が大きいことがわかる。生身の人の支えが何よりも必要なのである。

一方で行政に求めるものは、子育て・介護どちらも、施設等の量的拡大が上位にランクされている。(図9.)

 

当事者以外にダブルケアへの問題意識はあるのだろうか?

2015年に厚生労働省が行った「高齢社会に関する意識調査」は国勢調査の比率に合わせてサンプリングした調査だが、それによると、約半数の人が「ダブルケア」を身近な問題として認識している。一方で「わからない」と回答を保留した人も20%強存在していて、身近な事として考えたことがない人も一定割合存在することも明らかになった。

この調査では、介護と育児を合せた場づくりが必要と考えている人が多いことがわかった。(図10.)

 

 

「ダブルケアラーの方々のお困りごとをまるごと相談に乗ってくれて、必要な情報やサービスにつないでくれたりコーディネートしてくれる窓口や人材の重要性が浮き彫りになった」(※2)。このような「ダブルケア視点」をさらに広げ、多世代型地域包括ケアと呼ぶ動きも出始めている。

日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男