文化庁が毎年テーマを変えて実施している「国語に関する世論調査」。年齢層ごとの言語に関する意識や行動を知るうえで興味深いデータを提供してくれる。
本コラムでも以前、「新語はシニアに届くか」というテーマでその結果をご紹介した。今回は平成27年度の同調査から、文化、スポーツ面でのカタカナ語と漢語についての使用頻度を比較したデータをご案内しよう。
まずは、「日本語を大切にしているか、していないか」の年齢層別データ。(図1.)言葉を使う態度をはかるベースになるデータだ。全体の結果から見れば、「大切にしていると思う」は、前回の平成20年から、約3ポイント減少しているらしい。言語に対して鋭く意識を働かせている人は、漸減傾向にある。これは肌感覚でも納得できることであろう。
年齢層別にみれば、年齢層が上がるほど、「大切にしていると思う」人が増えてくる。大きな境目は60歳代と70歳代の間。20歳代から60歳代までは、「あまり意識したことはないが、考えてみれば大切にしていると思う」という消極的大切派が「大切にしていると思う」という積極的大切派を上回っている。
この趨勢は70歳代で大きく逆転する。積極的に「大切にしていると思う」人は70歳代では50%強と60歳代に比べ一気にその比率が上昇しているのだ。
つまり、70歳代の方に物事を伝えようとするには、それ相応の覚悟で日本語を使わないといけないということだ。生半可な略語や若者言葉、流行語は反発を招きかねないということだ。心しておくべきであろう。
それでは、具体的な言葉を例に取って、漢語とカタカナ語どちらの使用頻度が高いかを見て行こう。
図2.は「脚本」を使うか、それとも「シナリオ」を使うか、年齢層別に比較したものだ。
漢語を使う比率は年齢層が上がるほど、高まってくる。どんな言葉でも概ねこの傾向なのだが、この両者にはある特徴がある。ある時点での逆転現象がなく、すべての年齢層において、「脚本」使用層が「シナリオ使用層」を上回っていることだ。シナリオというカタカナ語の命脈は長く、人口に膾炙した定着単語と言ってよい。一見若い世代は、「シナリオ」圧勝かと思われたがそうではない。
カタカナ語として「シナリオ」の歴史は結構長いが、それだけに派生的な意味も多く生まれている。シナリオの邦訳として、脚本以外にも計画、工程、戦略・戦術など、幅広いニュアンスで用いられることが多くなった。そのため本来的な意味の脚本とイコールでシナリオを使うことが憚られてきている。拙い私見だがどうだろうか?
図3.は「芸術家」VS「アーティスト」。こちらは、脚本やシナリオと大きく異なる結果が出た。
20~30歳代にかけての若い世代では、「アーティスト」を使用する向きが、「芸術家」を圧倒。約2.5倍の差をつけるに至っている。40歳代では僅差に縮まり、50歳代で「芸術家」が逆転し、多数派となる。さらに60歳代~70歳代にかけて、「芸術家」派は一気に盛り返す。70歳代ではその差が7倍にも上る勢いを見せている。
シニア世代には耳慣れないと映るのか、小賢しいと映るのか、そこはわからない。ただ、広告やカタログのコピーでくれぐれもシニアには、「アーティスト」という言葉を使ってはいけないことは肝に銘じるべきだ。(下)に続く。
「婚活・イクメン・女子力」。新語はシニアに届くか? はこちら
https://www.nspc.jp/senior/archives/1412/
日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男
2024年10月11日
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