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働く75歳超も、増加
超高齢者も働く社会に、必要なことは?

 2025年1月に公開した記事、「2025年、すべての団塊の世代が後期高齢者 変遷する高齢社会」において、75歳超社会における以下の変化を紹介した。

 1)75歳超高齢者においても、働く人は増加
 2)75歳超も体力は向上
 3)所得は中間層と最下層が増加、貯蓄は若干格差が拡大
 4)消費スタンスの変化
 5)IT力の変化

 今回は75歳超も働く人が増加傾向にあることを中心に、今後の高齢社会に求められることを検討していく。

働き続けたい、働き続けてほしい
その環境は整っている?

 まず思い浮かべられるのは、高齢者・超高齢者も働きやすい環境を整えること。これまでの生産年齢人口(15~65歳未満)だけを前提にした環境ではなく、より高齢な人も働くことを前提にした環境を整えていくこと。
 高齢者も働く前提になっていない労働環境で、働く高齢者が増えていることも影響しているのだろうか、高齢者の労災事故件数は増えている。

厚生労働省 労働災害発生状況 令和元年~令和5年より作成
2018年以前は、60歳以上をひとまとめにしたデータ

 20代・30代・40代の労災件数は横ばいあるいは減少傾向にあるが、働き盛りの50代、そして一気に就労者が増えてきた60-64歳で、労災被災者が急増している。
 もちろん就業者数の多い・少ないは災害発生件数に影響するが、それだけ多くの中高年者が働いているわけで、労働環境の安全整備はこの人手不足下で事業者側には優先順位の高い対象だろう。一方で65-69歳は大きな変化はなく、70-74歳、75歳以上では目に見えて増加傾向にある。この違いはなんであろうか?何か関係する要因はあるのだろうか?

 ちなみに前回記事でも紹介したが、各年代別の就業率は以下。

労働力調査より(年次)作成

 60代前半の労災件数が増加して65~69歳の発生件数が安定していることから想像すると、64歳定年までは現役として、責任と負担のある業務についていることが労災に繋がっているかもしれない。64歳以下でも年齢があがるに従い身体能力は低下し、瞬時の判断や反応が鈍るなどして事故等に見舞われるリスクが高まる。一方で65歳以上高齢者に対する働き方や労働環境の対策が講じられていれば、労災リスクは低減。

 多くの企業で定年の見直しが進んでいるが、雇用制度だけではなく労災対策としての就労環境の見直しも必要性が考えられる。
 加えてこれまで就労者数が少なかったため整備が遅れていたであろう、安全衛生管理の整備、身体の健康や体力の把握および必要な対応体制、精神面の健康把握と必要な対応体制。70歳以上が働く場となっていくためにも、多世代で働く職場の確立が求められる。

高齢労働者はどこで
どう働いている?

 では高齢者はどういうところで、どう働いているのか。年齢階級別に、どの産業で働いているのかを示すのが下記グラフ。残念ながら65歳以上はひとまとめとなっているデータなので75歳以上については詳細をみることはできないが、どの産業で多くの高齢者が働いているかを確認することはできる。

2023年労働力調査 年報より作成
2023年労働力調査 年報より作成

 上のグラフは各年齢階級の人がどの産業に何人働いているかを示している。下のグラフは各年齢階級の就業者のうち、何パーセントの人がどの産業で働いているか比率を示している。
 年齢階級ごとの就業者数を見ると、勤めてきた企業や業界から新しい産業へ移動している人がある一定数いると推測できる。特に65歳以上から、動きが生まれやすい。60歳においては勤めてきた企業やそのグループ内で働き続ける人が多いのだろう。製造業から離れる人は多く、一方で農業、卸売り・小売、サービス業に移動する人が多いと推察できる。(元データを見ると農林漁業のほとんどは農業)ちなみに「他に分類されないサービス職業」とは、廃棄物処理業とか、自動車整備業、職業紹介や労働者派遣業など、含まれる種類が非常に多い。

 では具体的に、高齢者層はどういう仕事をしているのか?以下のようなデータがある。

2023年労働力調査 年報より作成

 60歳、65歳と年齢があがるにつれて、事務従事者が減少し、サービス職業従事者、農林魚漁従事者、運搬・清掃・包装等従事者が増加。先ほどの産業別でみた「農林漁業」「卸・小売業」複数の「サービス職業」の就業者数が多いこと繋がっている。

 では、どういう就業上の地位・雇用形態で働いているか。

2023年労働力調査 年報より作成

 60歳以上で、正規雇用より非正規雇用者が増加する。企業が人件費負担を減らすために、正規雇用を控える影響かもしれない。
 グラフ「年齢階級別 産業別就業者数」およびグラフ「年齢階級別 産業別就業者比率」において、65歳以上で増える「他に分類されないサービス職業」には、職業紹介や労働者派遣業なども含まれている。65歳以上の雇用形態において、非正規職員が増えている。

 これらのデータから推測されるシニア就労者が多い産業、さらに派遣業において、団塊の世代も働き続ける可能性は高い。これまでの就労環境では確保が難しい、高齢労働者の安全衛生管理、身体の健康や体力の把握および必要な対応、精神面の健康把握と必要な対応の開発が急がれる。

70代前半/後半、男性/女性に見る
長く働く人たちの働き方の傾向

 当室では2020年10月から12月にかけて、ワーキングシニアの就労実態と就労意識についての定量及び定性調査を実施した。
 5年前、コロナ禍において実施した調査ではあるが、70代については以下のような傾向がみられた。

2020年10月~12月 シニアマーケティング研究室 調査
2020年10月~12月 シニアマーケティング研究室 調査

〇70—74歳男性の職業分布において
 専門職、一般職、パートタイム、フルタイムの偏りは小さい。
 あえて言うとフルタイムで働く人の方が多い
〇75—79歳男性の職業分布において
 専門職、一般職に偏りはないが、フルタイムで働いている人が断然多い

2020年10月~12月 シニアマーケティング研究室 調査
2020年10月~12月 シニアマーケティング研究室 調査

〇70—74歳女性の職業分布において
 専門職と一般職では差はなく、明らかにフルタイム勤務よりパートタイムが多く
〇75歳以上女性の職業分布において
 専門職と一般職では差がなかったが、
 パートタイムで働く方は一般職が多く、フルタイムで働く人は専門職が多い。

 75歳を超えて働く場合、女性は自分ができるあるいはしたい仕事に応じてフルタイムかパートタイムか働き方が決まる(選んでいる?)。一方で、男性は仕事内容に関わらず、時間を費やしより多くの収入を得られるフルタイム勤務の人が多い。

※他、調査結果については、「働ける間は働くという「リタイアレス」が当たり前に -現役ワーキングシニアの実態調査とディプスインタビューを実施」にて、一部公開している。気になる方は参照いただきたい。

地域の担い手をどうするか?
新たな方法を探る必要性

 75歳超も働き続ける人が多くなってきたとき検討すべき課題のひとつに、地域の担い手不足の可能性である。

 これまで、自治体の行政組織を支える末端機構を自治会・町内会が担ってきた。共働きが増え、長時間労働も増えてきた中、自治会や町内会を運営する人の多くが高齢世代である。しかし高齢者も元気な人は働く人が増えれば、さまざまな場面で担い手が不足するのではないだろうか?
 たとえば横浜市の自治会長の年齢は、70代以上が60%(横浜市 市民局 令和4年度 自治会町内会に対する依頼の見直しに向けたアンケート調査報告書)。
 PTAや老人会による見守りなどのボランティアも集めにくい、といった声も聞かれる。加えて個人情報保護の関係上、町内活動がやりづらくなっていることもあるという。

 この状況を打破したいという声は全国共通。
 今後は、NPOや市民活動団体が活躍したりするだけでなく、地域の交通産業や金融、不動産などが自社の事業にも繋がるカタチで空き地・空き家の活用、見守り、地域活動の運営、高齢者のサポートをするなど、新たなビジネスも考えられる。

株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 石山温子