2024年10月4日、東京商工リサーチの発表によると今年度上半期(4~9月)の「人手不足」関連(求人難、人件費高騰、従業員退職など)倒産は、148件(前年同期比80.4%増)で、前年同期の1.8倍に急増したという。令和6年版労働経済白書(第2章人手不足への対応)でも示されているが、人手不足は2010年代以降、続いている。
しかし現在、日本の就業人口は約6,700万人(令和4年就業構造基本調査:5年ごと実施)。仕事が主な者だけでなく、家事が主な者、通学が主な者も含めての数値だが、人口の54%が仕事に就いている。また65歳以上の就業者数は914万人(労働力調査2023年)。一方で、生産年齢人口とされている15-64歳は、7,420万人。この年代の中には勉学のみの学生や専業主婦、仕事を完全にリタイヤしている人々も含まれている。ちなみに2024年11月1日現在の総人口は1億2379万人(総務省統計局発表-2024年(令和6年)11月報)。
こうした数値から今の日本では年齢や状況を問わず、相当な人たちが仕事に就いていることがわかる。
それなのに、足りない。あらゆる場面で労働力不足という。
人材確保のために「103万円、106万円、130万円の壁」対策、外国人労働者の活用、60歳・65歳を超えても働きやすい環境づくり、子育てと仕事の両立支援など数々取り組まれているが、ここでは、介護と仕事の両立について考えたい。
介護離職は、年間10万人前後
介護しながら働いている人、50代が最多
人手不足が続いている2010年以降だが、ここ10余年、年によってばらつきはあるものの、介護を理由にした離職は毎年、年に8万から10万人。減る様子はまったく見受けられない。
ますます高齢社会になっていく中、介護と仕事の両立が難しい環境を変えていく重要性が見えてくる。
介護離職となれば人手不足に単に拍車をかけるだけでなく、事業を運営する上で大事な世代を失うことにもつながりかねない。介護をしている有業者数は364万人で全体の5.4%。年代別でみると50代の1割が、働きながら介護を担っている。
現在、有業者の平均年齢は、46.8歳(令和4年 就業構造基本調査より)。
介護と仕事を両立できる環境は、働き盛りで会社への貢献度も高くなる40代・50代の離職を防ぐためにも整えたい。
仕事と介護の両立は、就業者にも重要
介護を担う人にとっても、仕事を辞めることは経済的に大きなマイナス。
介護中または介護経験のある正社員への調査では、「介護中の苦労」として「介護・医療費の確保」と答えた人は主たる介護者である男性の51%/女性の44%。「自分の家族の生計維持」と答えた人は、男性の40%/女性の33%。また介護に関する不安・不満に関する調査で、介護経験者は「介護のための経済的負担」を上げている人が男性52%、女性41%。
家族の介護が必要になっても、就労を継続できる仕組み、財・サービスのニーズは今後ますます必要になる。それは地域・家庭の中だけでなく、企業内においても求められる。
事業内でできる仕事と介護の両立支援は
仕事そのものに関する仕組み、そして…
以下に考えられる項目をあげた。いくつかのポイントは既に整えている事業者も少なくないだろう。しかし中には必要でありながら、提供者や協力者を見つけにくい策もある。
1.勤務時間や勤務形態の柔軟性:リモートワークやフレックスタイム制度、ジョブシェアリングなどの制度面で、職場の柔軟性が仕事と介護の両立を支えてくれる職場もある。事業内容によっては取り組みやすい/取り組みにくい手法があるだろうが、可能なことから始まっている。
※ちなみに雇用型テレワーカーは26.1%(国土交通省 令和4年度テレワーク人口実態調査)
2.休業・休暇制度:法律的に定められている介護休業制度の実施は従業員30人以上事業所で90%、5人以上事業所で72.8%。介護休暇制度は従業員30人以上事業所で86.5%、5人以上事業所で69.9%が規定を設けている。(厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査」結果より)
3.職場の理解と協力醸成:介護を支援する法律、会社の制度、人事部の取り組みなどを全社員が理解すると同時に、協力しやすい人事制度・評価制度などの整備も必要。(たとえば「必要休暇取得者の業務をヘルプしやすいチーム構成、ヘルプした場合の評価」など)
4.教育と啓発活動:社員ひとりひとりが介護を自分ゴトとして準備したり、必要な知識やスキルを習得したりする機会を提供。この活動は、「3.職場の理解と協力」醸成にも寄与する。
5.介護について理解・共感する空気の醸成:仕事と介護の両立中である社員同士の横のつながりをつくったり、介護経験社員がメンター役を担えるつながりをつくったりすることで、当該事業所内で仕事と介護を担うコツや工夫を得られる。もちろん地域の包括支援センターに基本的に相談することが基本だろうが、会社というひとつの集団・文化で役立つ独自の価値が生まれるだろう。
6.介護について話せる・相談できる場:必ずしも社内組織でなくてもよく、介護に関する情報取得の支援、心身の困りごとに対する相談先を準備する。社内でこうした機会が周知されることが、「5.介護について共感する空気の醸成」にもつながる。
上記のうち、「2.休業・休暇制度」については多くの企業で取り組みが進み、「1.勤務時間や勤務形態の柔軟性」は事業者によって事情は異なるが、新たな道具・システムから新しい可能性が考えられる場面も生まれてきている。
一方、3)~5)はあまり取り組みが進んでいない。たとえば従業員向けのセミナーの実施や、社内外の専門窓口を設置している企業は約1割程度にとどまっているという。(経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する 全ての企業に知ってもらいたい 介護両立支援のアクション 経営者向けガイドライン」より)それどころか、介護に直面する以前に勤務先から両立支援制度について説明を受けていない人が6割弱。介護保険制度の説明を受けた人でも、54.6%。40歳以上は納める必要があるが、45%はその制度の説明さえ受けていない。
取り組みや環境が未整備では、介護に対する社員の意識や行動も生まれにくい。制度があってもその意義・必要性、何より存在の周知活動がなければ、突如、介護が発生するまで、社員も雇用者側も特段備えることはできないだろう。
加えて従業員に介護の課題が発生しても、実態把握に取り組んでいる企業は6割ほど。
まずは介護テーマで従業員とコミュニケーション
延長上に「教育と啓発」、事業者も学んで計画・行動へ
このように見てくると、多くの企業にとって従業員の介護離職を防ぐには、従業員の介護関連状況を把握することが始まりではないだろうか。その活動自体が、介護に関する気づきや学びであり、従業員への「教育・啓発」の第一歩になるだろう。自社の現状を把握し、1)、2)の整備とともに3)~6)の活動を構築していくことが求められる。
そして何より、せっかくつくった両立支援制度や、保険料を徴収している介護保険制度を説明が欠かせない。
実は、こうした1)~6)の仕組みは取り組みで先行している企業は存在している。
まずは介護に関する社内の知識と意識を向上
いつでも話せるプロは、お守りでありサポーター
大阪市の明治機械製作所(圧縮機器・塗装機器関連の総合メーカー)は、介護に困っている社員が実は多いことに気づいたとき、まず「介護はどうやって始まるか」セミナーを実施した。
その後、社員の介護に対する意識と行動意欲も高まり、企業としての取り組み、社会福祉士との顧問契約により定期的に介護に関する情報提供や社員面談や相談の機会を設けているという。
介護離職者を防ぐために、発生している/発生しそうな課題対象を小さくして、仕事を続けられるための支援を行っている。以下は、実施している項目だ。
【1】セミナー等による、全社員における介護への理解
【2】社長発信による、介護支援制度の利用推進
→ 管理職の意識づけ向上で、社員が制度利用を申請しやすくなる。
→ 現場で理解・空気がうまれやすくなり、理解と協力が進みやすい
【3】定期的に、介護に関する情報提供(ニュースレターの発行)
【4】定期的に、社員に社会福祉士との面談を実施
【5】いつでも相談できるプロがいる状態の確保
加えてセミナー後の飲み会など非公式な場で、社員同士で家の事情や介護の話が自然とできる環境が生まれているという。
従業員に介護について情報共有を行うことで、従業員からは自分の環境から感じる感想・意見・質問・相談を得られる。そこから介護離職を防ぐための新たな提案・施策を発想することもできそうだ。
介護離職者を防ぐ取り組みは自社の社員定着を図ると同時に、新たな事業を見つける活動にもつながるかもしれない。
※株式会社明治機械製作所の取り組みについては、はる社会福祉士事務所:佐々木さやか氏への取材および協力による。
株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 石山温子
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