前回の記事「2025年、すべての団塊の世代が後期高齢者 変遷する高齢社会」において、75—79歳を中心に過去と今の同年代を比べ、1)就労、2)体力、3)所得と貯蓄、4)消費スタンス、5)IT力、5項目の違いをかいつまんで紹介した。
これら5つの項目に変化が生まれるには、そこにつながる行動や行動時間においても変化があるのではないだろうか?
今回は2011年と2021年の社会生活基本調査(5年ごとに実施)から、65歳以上の各年齢階級において、1)~5)につながる行動や行動時間の変化を探ってみる。
ただし2021年の調査においては2020年からの新型コロナウイルス感染対策期間中であったため、「交際・付き合い」等に関連する行動については特に抑制が効いていたのではないかと考えられる。それらを踏まえた上で、データを見る必要はある。一方で、行動抑制が効いていた中でも大切にしていたことは何か、という見方にも使えるかもしれない。
これらの視点も加味しながら検討した。
10年前と比べ、コロナ禍2021年で減少or増加した
行動者率・行動時間の対象で、わかること
以下の表は2011年および2021年の各年齢階級における行動の種類別、行動者率、行動者の平均行動時間をまとめたもの(週全体での1日当たり平均。男女あわせたデータ)。
労働力調査における就労率でも同様だが、年々、高齢者の就労率は向上しているが今も昔も、年齢階級で比較すると高齢であればあるほど就労率は低くなる。社会生活基本調査における「仕事」行動者率も同様。コロナ禍における2021年も、前期高齢者の「仕事」行動者率は10年前に比べて増加した。一方で、健康面での懸念が取りざたされていた75-79歳、80-84歳においは10年前とほぼ同率。(しかし特段、減少はしなかった!)
また全体で見たときの数値としては少ないが、学業の行動者率も各年齢階級ともに若干ずつ増加。その結果か、「通勤・通学」行動者率も増加。同行動者の行動時間もほぼ増加した。
仕事や学びといった類で社会と繋がる行動者率は、10年前より上昇していた。
一方で「交際・つきあい」、「ボランティア活動・社会参加活動」といった不要不急のイメージが強い行動者率は減少。
これらの傾向は、社会活動を無くしたくない。大切にしたい、という高齢者の意思の表れともいえるのではないだろうか。 ちなみに85歳以上では「ボランティア活動・社会参加活動」の行動時間において、大きく伸長。85歳以上となると、「働く」機会を得るのはコロナ禍において一層困難だったろう。そういう中で「ボランティア活動・社会参加活動」への参加はまだ可能性が高く、社会とのつながりに積極的に活用していた方々がおられたのではないだろうか。
高齢者自身が気づき、求めている
人とつながる価値
多くの媒体や識者から発信されている、健康に歳を重ねるために欠かせない3要素は適切な「食事」、「運動」、「社会生活」。中でも加齢に伴い損なわれやすいのは、「社会生活」。コロナ禍においてはこの「社会生活」を如何に維持するかについて多くの場面で議論にあがり、当室においても記事にて発信していた。
しかし2021年の社会生活基本調査の結果を見ると、意外と多くの高齢者が自ら意識したり行動したりしていたのではないか、と推測できる。
よりよい高齢期のために、3要素、特に社会生活維持の重要性について高齢者自身へのアラートや周囲への注意喚起はもちろん続けるべきだが、高齢者自身は既に必要を感じ、求めている。先日、当室のメールマガジン『シマ研通信』vol.127【編集室から】でご紹介した、生活支援サービス提供者が感じた「利用者さんはお話したがっている」、というエピソードも同様。掃除や片付けといった生活支援を得ることが本来目的ではあるが、楽しみにしているのはおしゃべり。
この「目的」とは異なる、「楽しみ」を得ながら利用するという高齢者の態度は、事業者にとって着目すべき点ではなかろうか。
始まりは「解決したい課題」
続ける理由は、課題解決だけではない
以前、シニアのデジタル利用具合がまだ道半ばであった頃に発信した記事、「「シニアへデジタル提案」に、必要なこと 2」において、“シニアが慣れないデジタルを使い続ける理由”として、メルカリが提供できている「シニアの潜在ニーズを満たす社会生活効果」の話をお伝えした。
シニア層がフリマアプリを利用する目的はもちろんフリマアプリならではの「不要品の処分」、「欲しいものをお得に購入」、「お金を得る」。その一方で、使っているうちにいろいろな情報を収取できたり他者とのコミュニケーションに喜びを感じたり、さまざまな社会生活を得ている。これらメルカリを利用するシニアの声は、高齢者が大切にしている「人とつながる」価値を示していた。
今回、社会生活基本調査の「行動者率」と「行動者の行動時間」においても、高齢者は社会とのつながり維持に積極的であった。高齢者世帯がますます増加し、多くの人にとって、家庭内における社会が小さくなっていることも背景にあるだろう。
高齢者への提案において何をテーマにおいたとしても、テーマとした「課題」を解決するとともに、社会とのつながりは大切なポイント。就労も体力づくりも直接得られること≒目的は収入や健康だが、付随する楽しみ~「人とつながる」「おしゃべりをする」が、利用の決め手や利用継続の鍵になるのではないだろうか。
株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 石山温子
2025年3月4日
2025年2月5日
2025年1月23日