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◆シニアが体験、EXPO2025◆
第3回:「シニアマーケティング」へのヒント

 本稿では、前回までの私自身のEXPO体験を通じて、シニアマーケティングにおける実践的な示唆を抽出し、整理してみた。

1.シニアの「今」のデジタル対応力を理解する

体験:入場予約やアクセス交通機関の予約はスムーズだったがパビリオンの予約はわかりにくい。

マーケティング示唆:最近のシニアはスマホをある程度使いこなすことはできるが、画面の小ささがネックとなって、いくつかのアプリを同時並行で使いこなすことが難しい。それを理解したうえでデジタルコミュニケーション設計をするべき。

2.シニアのデジタル決済能力には個人差が大きい

体験:現金が使えない会場でらくらくデジタル決済しているシニアもいれば、孫と思しき若い連れに頼んでいる場面も見られた。

マーケティング示唆:今のシニアはデジタル過渡期世代とも言える。十分対応できるシニアもいれば、それが難しいシニアも混在する。そのためデジタルをメインとしながらもアナログな対応も残すべき。

3.シニアにとっての“アクセスと導線”の重要性

体験:夢洲へのアクセスはシャトルバスや鉄道が整備されていたものの、乗り換えや導線に不安を感じる場面があった。

マーケティング示唆:
・シニアは「迷わず・疲れず・安心して」移動できる導線設計を重視する。大きく、見やすい文字、矢印やカラータイルなどのわかりやすい導線設計を。小さな文字、横文字は極力避ける。
・予約が必要な交通機関は電話などシニアがアクセスしやすい方法を用意すべき。
・会場マップは「スマホ表示」よりも「紙の大きな地図」「現地の分かりやすいサイン表示」が重要。文字は大きく、色使いはコントラストをつけて。シニアにスマホの地図での誘導は難しい。
・案内スタッフの声がけや、ベンチの多さは「滞在時間の長さ」に直結し、「おもてなし表現」としてとても重要。

4.「体験価値」は情報より“共感・共鳴”
体験:万博会場では、テクノロジーの展示よりも、人の交流や体験型の展示が記憶に残った。

マーケティング示唆:
・シニアにとっての「価値ある体験」とは、「知識」より「感情」に訴えるもの。
・テクノロジー展示は「難しい説明」より、「自分ごと化」されたシナリオがシニアには刺さる。

例:「未来の医療」展示は、自分の健康や孫の未来を想像させることで興味が湧いた。

5.シニアの「滞在の質」は休憩場所とトイレの安心感に比例

体験:屋外のイベントや展示が多く、座る場所が少ないことが気になった。休憩スペースが混雑していたのも課題。

マーケティング示唆:
・シニアは「どこで座れるか」を常に気にしている。「歩く」より「立つ」ことが辛い人も多い。
・快適な休憩環境=リピート動機に直結。空調の効いた休憩場所が必要。パビリオンに休憩する場所はほとんどない。休憩スペースは空調のない場所が多く、これから暑くなる時期は課題。
・シニアにとってトイレの場所・清潔さ・数も重要なファクター。看板や案内表示は大きく明確に。

6.音・視覚情報の「調和」が鍵

体験:展示ブース間で音が混じり合い、話が聞き取りづらい場面があった。照明も明暗差が激しいブースでは目が疲れた。

マーケティング示唆:
・加齢による聴力・視力の変化を考慮した設計が不可欠。
・展示ブースは「音の混線を避ける設計」「文字サイズの調整」「落ち着いた色味」が望ましい。
・特に案内音声やナレーションは「ゆっくり・はっきり・聞き取りやすく」

7.「誰と来るか」に合わせたストーリーデザイン

体験:会場にはシニア夫婦・家族連れ・友人グループなどさまざまなシニア層がいたが、同行者によって楽しみ方が異なっていた。

マーケティング示唆:シニア単体でなく、「同行者との関係性」を前提にしたコンテンツ設計が重要。

例:
・孫と来る→写真映えスポット、遊び要素が響く。ショッピング(孫へのプレゼント)。
・夫婦で来る→ゆったり歩ける回遊性、会話が弾む展示が◎。
・家族内会話のきっかけになるようなコンテンツ設計が好印象。

まとめ:シニアマーケティングに必要なのは「共感設計」と「安心設計」

 今回の万博体験を通じて、以下のような視点がシニアマーケティングにおいて肝となると感じた。

・迷わせない、疲れさせない、焦らせない「導線と環境設計」
・感情に寄り添う「体験ストーリー」
・安心して滞在できる「インフラ(休憩、トイレ、音・光)」
・同行者と共に楽しめる「会話を生む仕掛け」

筆者撮影

 今後のイベントや施設づくりにとどまらず、これらの要素をどう組み込むかが、シニアの満足度や再訪意欲(ブランディング)に直結するといえるだろう。

株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 特別顧問 倉内直也