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「団塊の世代」の参入で
後期高齢者の消費はどう変わる?

 これまでの後期高齢者は、「やけあと世代」が中心だった(参照記事:2025年、すべての団塊の世代が後期高齢者 変遷する高齢社会)。
 「やけあと世代」は戦後の食糧難や住宅難を経験し、生活を立て直すことが人生の起点となった世代。進学や職業の選択肢が限られる中で大人になった。高度成長期に豊かさや贅沢も享受してきたが、幼少期の経験から身の丈に合った暮らしを重んじ、消費行動も日々の実用性や節約意識に根ざしている。高齢期においても、医療・食費・日用品といった“生活必需”を中心とした支出傾向が見られ、豊かさよりも「確実性」や「不安の回避」を重視する傾向がある。

 この後期高齢者層に、「団塊の世代(1947~1949年生まれ)」が新しく加わった。

 団塊の世代は、戦後の義務教育の整備や進学率の向上とともに育った。社会に出てからは、高度経済成長期の中心世代であり、企業の成長と安定した雇用、豊かな生活を手にした経験を持つ。アイビーファッションやジーンズの爆発的流行、マスメディアの発展を支え、若い頃から消費を通じて生活の質を高めてきた。

 「買えば生活が変わる」「よいものを持ちたい」といった体験から、団塊の世代にとって、消費は「自己実現のひとつ」とも言える。

 高齢者人口の増加から「高齢社会」は取りざたされるようになったが、この世代のリタイアがシニア市場への注目を高めたといっても過言ではない。
 団塊の世代は高齢期においても、医療や生活必需品だけでなく趣味・旅行・文化・学びなど、自分自身の満足や楽しみを重視した支出が見られ、生活防衛意識を持ちつつも人生を能動的に楽しもうとする傾向が強い。

 世代による消費の違いは、今年1月の記事「2025年、すべての団塊の世代が後期高齢者 変遷する高齢社会」で紹介した「現在、意識的にお金をかけているもの」のグラフにも現れている。

消費者意識基本調査(2016年:平成28年度実施、および2023年:令和5年実施)より作成

 「食べること」「医療」への比重が断然に高かった2016年の70代に比べて、2023年の70代はいろいろなことに意識的にお金をかけている。子ども時代の生活環境、大人になってからの社会環境など、生きてきた積み重ねの違いにより、必要な消費や求める方向性に「やけあと世代」と違いが表れている。

 団塊の世代はこれまでも、その人口ボリュームから社会に何度も影響を与えてきた。人生で何度も「社会の主役」として時代を牽引し、他世代と比べて「経済的インパクト」「影響力のある消費」が際立つ。そして本人たちも、自覚している。「僕らは団塊の世代だからさぁ…」という口癖の「…」以下に、さまざまな現象や歴史を入れることができる。

 そんな団塊の世代が全員、後期高齢者になった。

団塊の世代が加わった後期高齢者の
消費マインドの下地は…?

 大量の人口パワーで以て学校教育の制度を整えさせ、高度成長を支え、よく働きよく買い、また働きまた買い…と日本の経済発展にとともに成長した団塊の世代。彼らは、これまで後期高齢者の主役であった「やけあと世代(戦後ものがない時代を覚えている)」とは、消費経験も価値観も異なっている。
 加齢に伴い発生する後期高齢者のニーズや価値観に、団塊の世代の価値観が加わって、新しい消費傾向が生まれてくるのではないだろうか。

 以下、前回記事「団塊の世代」が加わった75歳超世代の経済的事情と消費 において項目化した内容。

【団塊の世代らしい価値観】
〇革新性≒新しさ
〇チャレンジ感
〇仲間感

【後期高齢者だからこその価値観】
〇現状の健康や生活スタイルをできるだけ守る
〇発生してくる不快を減少したい
〇有限なものを大切にしたい(≒今を大切にしたい)

 後期高齢者のニーズや価値観を意識した財・サービスは、既にいくつも上市されている。たとえば健康づくりの体操や適切な栄養摂取メニューに補助食品、趣味や外出の支援、見守り、住まいの修繕/改修、金銭管理や家族との交流支援、etc.。加齢に伴い生じる不快や不便を解消したり、日々のくらしを維持したり快適にしたりする、財・サービスが提案されている。もちろん今後も新たな提案は可能であり、必要でもある。

 こうした既存の商材を団塊の世代の価値観に応えながらアップデートさせていく、という戦術が考えられる。

※「繋」は、「つながり」。

 後期高齢者のニーズや価値観を意識した財・サービスに、団塊の世代のベースとなる価値観、「技術/革新/新しさ」「チャレンジ感」「仲間感/みんな」という視点を足していく。

 たとえば栄養摂取の補助商材に、地域性を加えて近所の仲間と取り組むプログラムや仕組みを準備する。大学や高校の同窓生・かつての同級生が一緒に参加できる、参加したくなる、仕組みを加えて「食+繋」の商材を開発する。あるいは後期高齢者だからといって「見守り」を「してもらう」だけでなく、「見守りをする」側にもたつ、「健+繋」の商材を開発する。
 IT力のベースが高いことも、提案できる財・サービスの可能性を広げるだろう。

団塊の世代が加わり人口が増加
拡大する後期高齢者市場の中でも…

 最初に示した折れ線グラフでは、2016年の70代は「食べること」「医療」に意識的にお金を使っていたが、2023年の70代は様々なことに意識的とお金が向かっていることがわかった。
 では今後(も)お金をかけていきたい対象は、何なのか?それは現在、意識的にお金をかけている対象と同じなのか異なるのか?示したのが、下記のグラフ。

消費者意識基本調査(2023年:令和5年実施)より作成

 何が「大切なもの・こと」がわかる、線の動きは「現在」と「今後(も)」に大きな違いはない。「特にない」と「無回答」は、「今後(も)」では減少していて、「食べること」以外ほぼすべての項目に対して、「今後(も)お金をかけていきたい」は「現在」の倍近い数値を示している。70代は今お金をかけている対象についてもっと必要、あるいは楽しみたいと考えていると読み取ることができる。

 中でも「理美容・身だしなみ」「交際・他人との飲食を楽しむ」「旅行」「運動・スポーツ」「健康・リラックス」「介護・家事代行」など、要望が高いテーマについて、後期高齢者も楽しめる/利用できるための商材開発は、有望な市場性が考えられる。

株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 石山温子