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シニアの自己解決
-68歳男性、スマホの機種変更とキャリア乗り換えレポート-

契約後の「お問い合わせ」に店は応じてくれない

 話がやや脱線したが、ネットで予約した時間に店舗を訪れた。今回は店舗の対応時間をあらかじめネットで調べて予約しておいた。時間通りに、男性の社員が対応してくれた。今日、契約するつもりであること、MNP予約番号を取得済であること、希望の機種も決めていることを伝えた。

 まず、最初に告げられたのは、今日ここで契約してスマホを渡すが、前に使っていたスマホからにデータ引継ぎ方法、製品の使い方や回線の利用に関しての質問等はこの店では受けられない、ということだった。つまり、契約はできるが、「アフターフォローはネットや電話を使って、自己解決してね」ということである。

 店で店員に直接、いろいろ聞きたいというシニアには、この場合、店で契約するメリットは、その場でスマホを受け取れる、ということしかない。それなら、店で契約するメリットはない。ただ、あとは契約というとことまできていたので、そのことを了承して契約に進む。何かあれば自分で解決するしかない。

 この頃はコスト削減、合理化のことがあり、「会社(キャリア)・店の事情」と「客の事情」がせめぎ合うことが多い。スマホのキャリアはサービス業だから、これまでは「客の事情」が優先だった。お客は予約もなしに来ても、すぐに対応できるように人もスペースも用意されていた。

 他の業種でもそうだろう。しかし、値下げ競争が激しくなり、コストを削減しようとすればあらゆる面で合理化が求められる。R社のリアル店舗も販売や顧客対応が目的ではなく、後発キャリアとして「R社」ブランドを露出するメディアの役割が主だと考えられる。だから客は「店の事情」に合わせなくてはならない。

 私はそのことを理解している。だから、予約なしで断られても、待たされても腹を立てることはない。しかし、シニアの多く、とくに団塊の世代以前は「お客さまは神様」であり、店は客の事情にあわせるのが当たり前である(であった)。このあたりの塩梅をうまくしないと「あの店はけしからん」ということになる。

 しかしサービスに見合った対価を求めるのは当然である。この点、企業も消費者も発想を改めないと、我が国の長いデフレから抜け出すことは難しい。シニアに向けて、「客の事情」に合わせる必要があるなら、その分はコストに乗せればよい。接客の「グリーン車」化である。私のようにグリーン車は必要ないシニアには「店の事情」を上手く納得する説明が必要だが…。

一方、店がある安心感をアピールするキャリアも

 最近そうした流れと逆行するように「店で聞けるので安心」ということを訴えるキャリアも出てきた。マーケットとして大きい、シニア世代がスマホに乗り換えるニーズをとらえようとしているのであろう。多少支払いが多くなっても、「店で聞ける安心」を選ぶシニアは多い。しかし、なんでも教えてくれるかというと、かなり?がつく。

 家内はもっぱら「店で聞く」派だが、結構、「それはネットで調べてください」といわれることがあるそうだ。「調べてわからないから店にわざわざ聞きに行っているのに」とぼやいていたことは1回や2回ではない。ただし、それでも夫の私に聞くよりはいいと考えているらしい。このことは問題が別だが…

 「スマートフォンを使いこなすための相談相手(複数回答)」濃色:男性 淡色:女性 出典: NTTドコモ モバイル社会研究所ホームページ 2021年一般向けモバイル動向調査 より

 これから当面の間、シニアはデジタル対応できるシニアと、そうでないシニアに二極化してゆく。2025年くらいにはデジタルに対応できる「デジタルシニア」がマジョリティになると考えている。世の中はDXに突き進んでいる。では、デジタルに対応できないシニアに対してどうしてゆくのか?

 それはこれまで通りのアナログな支援が欠かせない。とりわけスマホやネットのような生活インフラになってしまったデジタルへの対応に取り残されたシニアには別の手段を講じる必要がある。いわゆる「デジタルディバイド」であり、最近では「デジハラ」という言葉も耳にする。

・シニアがシニアに教える(共助)仕組みを作り、それを行政や企業がNPOなどを通じて支援する。
・手厚く対応するコストはシニア自身に負担してもらう(グリーン車料金)。格差の問題から一部の補助なども考えられるが、これからの財政状況から難しいかもしれない。

オプション契約を強く勧められる

 契約の話に戻ろう。R社の場合は契約プランが一つしかないので、あとはオプション契約の選択になる。勧められたのは毎回10分の通話が無料なるものと、スマホ本体の保証オプション。どちらも不要といったが、無料通話のオプションについては何度も勧められた。簡単に中止できるということで、いったん申し込むことにした(後日に解約)。

 シニアは店員に強く勧められると、不要と感じていても、断るのに気が引けて、ついOKしてしまうのではないか。よくわからないということもある。このあたりは店側の親切から出たお勧めとはいえ、注意が必要かもしれない。

 本人確認やクレジットカードでの支払い、契約書への署名をすまして、少し待つうちに新しいスマホを持ってきてくれた。製品一体型のe-SIMではなく、一般的なナノSIMが装着してあった。その場で受信確認。問題なしということで契約は完了。あとはポイントバックキャンペーンの説明を聞いた。

 ポイントバックを受けるには最初に、R社の通話アプリを使って1回、10秒以上通話が必要とのこと。何かを確認するためだと思うが、シニアはつい忘れてしまうことがありそう。その場で通話してあげれば、シニアが間違いなくポイントを受け取れる。

シニアには紙の「取説」がほしい

 持ち帰って、早速使ってみる。初期設定はシニアにとってかなりハードルが高いところ。まず、古いスマホからのデータ移行。これには難儀すると思いきや、初期画面の案内に従ってケーブルをつなぐだけで簡単にできてしまった。LINEや連絡先、写真、メール設定などほとんどが問題なく引き継げていた。

 ただ、コスト削減、充電機器や接続品の重複削減のためか、スマホに充電器も接続ケーブルも付属していない。シニアの経験からは考えられないことなので、スマホを手渡すときに、「充電器もケーブルもついていません」という注意喚起は欲しいところ。しかも新しいスマホのケーブル接続口がこれまでアンドロイド端末で一般的だった「ミ二USB」ではなく、「typeC」になっていて、この辺りはちょっと知識がないと対応が難しい。幸い私が使っているWi-Fiルーターが「typeC」の接続だったので、それに付属していた、ケーブルと充電器が使えたからよかったが…。

 シニアにとってそうした機器やケーブルなどの「互換性」はハードルが高い。しかも、最近のIT機器にシニアが最も頼りにしている「紙の取扱説明書」がついていない。ネットで探し出して見るかPDFをダウンロードしてみるしかない。私の記憶ではアップルの機器が取説なし最初ではなかったか。その後、デジタル機器を中心に「取説レス」がデフォルトになりつつある。

歳を重ねると「指紋が消える?」

 さて、まずはポイントバックを受けるための条件となっている、通話アプリを使っての通話。家内のスマホにかけて、問題なくつながった。これで条件はクリアしたことになる。それを終えてから、通話オプションの解除に挑戦。これは店員が言っていた通り、ユーティリティアプリから簡単に行えた。カメラなどの操作はこれから徐々に習得しようと思う。

 アンドロイドの場合はスマホのメーカーが変わると、操作方法がかなり変わってしまう。さらにアンドロイドのバージョンも上がっているのでなおさらである。その点、iPhoneなら機種を変更しても、基本的な操作は変わらないので、戸惑うことは少ないだろう。同じ機種を使っている家族や知り合いに聞くときもわかりやすい。iPhoneがシニアに支持されている大きな理由その点である。

 最後にロック解除を指紋認証にしようと、指紋登録を試みる。これがうまくゆかない。指を押しつけても登録できない。何度も繰り返してようやく登録できた。しかし、今もロック解除は1回でできたためしがない。指紋がだめで数字で解除することもしばしばである。

 調べてみると、加齢で指紋が薄くなるらしい。ネットにはシニアの指紋ネタは山のようにある。年をとると失うものが多いが、指紋もその一つのようである。若い技術者にぜひ、「年をとると指紋が消える」ことを理解してほしいものだ。

シニアになってなじめてわかることも多い

 「シニアへアプローチするにはどうすればよいか?」シニアマーケティングに携わってこれが一番よく受ける質問である。その答えは「シニアを理解する」しかない。これはほかのターゲットと変わらない。ただ、シニアに関してはマーケットとマーケッターの間が広がってしまい、お互いがよくわかっていないことが多い。

 身近な存在として両親、祖父母という存在があるが、なかなか客体化してみれない。そのためにはこのサイトにある、たくさんのデータやシニアの声を知ることである。この体験もそのための一助なれば幸いである。

 「松のことは松に習へ、竹のことは竹に習へ」俳聖、松尾芭蕉の名言である。万物には個別に特徴があり、それぞれに学ぶべき点があることを説いている。世代も同じ。理解できない、わからない…ではなく、シニアの声に耳を傾けてみると、学ぶべきことも多い、という視点でみてはどうだろうか。

   株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 倉内直也